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或る少女の物語 3

  こんばんは、という聞き慣れた声の方向へ向くと島田がいた。
午後9時の街並みは暗いとはいえど、まだ人通りは沢山ある。どこへ行くのかはあえて聞かなかったが、島田も聞いてこなかったので恐らく私と同じだろう。
それは目的地のない散歩である。
お互い一人暮らしをしているということもあり、二人とも心の中の虚無感や寂しさを紛らすために目的のない散歩を毎日の日課としている。

しばし無言で歩き、先に口を開いたのは島田だった。
「ねぇ、ポールワイスの思考実験て知ってる?」
唐突で脈絡もないなと思いながらも島田らしいなと思い、私は質問に応じる。
「知ってるけど、どんな内容だったっけ?」
島田は僅かに自信ありげな表情で
「一匹のヒヨコがバラバラに粉砕されたとして、そのヒヨコは何を失ったと思う?物質的には何も変わっていないんだけど、生物学的組織を失ったんだよ。」
続けて、組織と共に生物としての機能も失ったんだ、といった。
私は「思考実験とはいえどそんな残虐な事が思い付くなんて、ぶっ飛んだサイコ野郎だな」と思った。

 その後島田を別れた私は、孤独に苛まれつつも公園でサカナクションを聴きながらタバコをふかした。
一本、二本、三本、、、我に帰った頃には深夜12時を回っており、カラスやノラ猫ですら眠っていた。

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