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悪魔

「あくまさん」少女は物おじせず『悪魔』に語りかけた。
「なんだい?」
「あくまさんはどうして、にんげんがそんなにも、にくらしいのですか?」「それは人間を見下しているからだよ。かつてわたしは娼窟に棲みついていて、どうしようもなく困窮して絶望のどん底にある女の人を二束三文で売っていたんだ。売られる女に買う男、同様にみじめだから。一石二鳥でね。

わたしはなるたけ多くの人に、永く、ほんの少しずつでもいいから、みんなにみんなに苦しんでほしかった。ひろく、あまねく、いやしめてあげたかった。

みどりごがうまれた。しかしこの世はすでに老いている―
人間たちの世界をみるたび、そんなことに日々気がついて、うれしくてしょうがなかった。

それにね。特に何ももたらさない摩擦行為でこころをすりへらすのはあわれでこっけいじゃないか。そんなことを自分たちから何百万年もやりつづけてきたなんて信じられるかい。

あなたたちのそのへこへこした動きは
天体の運動や
かわせみのはばたきや
うつろいゆく虹のなかにある水のつぶ
かつてここにあったまばゆい光と変わりはしない。
それなのにどうしてそんなにみにくいのかな。

それはね、あなたたちが真実のこころに美を見出したとうそぶいておいて、それを裏切ったからだ。
自分や他人を売ったり買ったり見捨てたりしておいて、仕方がないのゴミ箱に世界をぶちこんでしまったからだ。
摂理と称してひとりひとりの裏切りの苦味を薄めようと汲々としているからだよ。
この世にみにくいいきものはたった一種類しかいないわけがわかっただろう。

あなたたちは生きることに精いっぱいだ。
けど、わたしは死ねとは言わない。
それじゃあまるであなたたちの生存に意味を見出したみたいだろ。
価値に関して理屈に合わないことをいうのは美しくない。

そのままの、ありのままのあなたでいればいい。
どうかとこしえに今が続きますよう。
どうか貴女があなたの心をまっすぐみつめる日が続きますように。
おいのりいたします。こころのそこから」


「あくまさん」少女は悪魔と呼ばれた女にそっとよりそった。
「なみだをふいて、ください」

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