見出し画像

めちゃくちゃ失敗した

2021年12月12日(日) 晴れ
めちゃくちゃ失敗した。全然練習通りできなかった。でもそれが良いのかもしれない。スロウダウン。ファスターファスター。右手も左手も喉も頭もバラバラに走っていくようだ。俺は俺を束ねようとするけれど、電気信号がそれを許さない。沸騰。転倒。予測していたことをまず自分自身が裏切る。足りない足りない。もっと音量が欲しい。もっと速度が欲しい。指じゃ足りない、ピックを掴む。白玉じゃ足りない、16分で刻む。オルタネイトじゃ足りない、全部ダウンピッキングでいく。思ってたのと違う。練習で覚えたのと違う。学校で習ったのと違う。それまで準備してきたことを、すべて台無しにするような3分間。いいのか?いいだろう。上体を前に傾けると転びそうになって自然と足が一歩出る。さらに傾けるともう一歩出る。それを繰り返すと走り出す。転ばないために走り出す。あまりに無様なその姿を、冷静に見れるなら最初から転んでいないさ。ビール飲まなきゃよかった、飲んだからよかった。アドリブしなきゃよかった、したからよかった。爪塗ってくればよかった、塗らなかったからよかった。頭の中にかけめぐること、後悔と反省。ことが終わった今ならはっきり言えるけれど、すべて必要ないです。仕事で起きた嫌なこと、昔付き合っててた女の子のこと、会えなくなった家族のこと、一切思い出さなかった。最高。自由。めちゃくちゃ失敗してる。全然練習通りできないでいる。バカみたい。賢く見られたい。もっとみんなから尊敬されたい。でも、できませんでした。最高。自由。コントロールしたいのに、全部裏切りたい。どっちも俺。そりゃうまくいくわけないよ。でも、うまくいくことの何がおもしろいの?そう思わなきゃやってられない。いや、それが世界の真理。血液の沸騰。電気の乱流。心拍の暴走。筋肉の膨張。これを待ってた。それは強がりかも、負け惜しみかも。いま俺は一人?それともみんなが俺と一緒にいる?手拍子が聞こえる。誰も俺に追いつけないでいる。俺のテンポは楽譜に表せない、誰にも寄り添わないでいる。あぁ、もっと冷静に、安定したリズムを刻めたら。俺たちの世界はひとつになって、音楽が人類の心を結びつけるかも。つ、つ、つまらねえ。そんな音楽に感動したこと、これまで一度もねえ。いま俺が裏切っているかも。俺が憧れたヒーローのように。思っていたのと違う、でも悪くなくって、むしろ笑っちゃうように。かっこわるいのとかっこいいのが、0点と100点が、それって誰がつけるの?ファスターファスター。ビール飲んでよかったな。俺はもう、何がなんだかわからなくなりたい。電車に乗っているとき、なんでこんなに人間が多いんだろうって思った。なんで座れないんだろう。奴隷か?俺は。休日の、日曜日のどこに安息があるのか。俺は、何のためにこんなことを。つらかった。やめたかった。心を入れ替えたかった。もっと自分に自信があって、堂々としていられたらいいのに。あの人のように。大学の同級生のように。Twitterで知り合った友人のように。なぜ俺はできないのか。新宿に着いた頃、少し気持ちが切り替わって、誰も俺に期待なんかしてねえよ、誰も聴いてねえよって。だとしたら何のためにやるか、もっと気楽に、もっと低俗に、もっと愚直に、もっともっと取るに足らない存在になって、お風呂場で鼻歌を歌うみたいに、隣人から苦情が来ているみたいに、外は戦争が起きているのに昼寝していてまったく気づかなかったみたいに。なんかやれるかもって思えた。それは俺の健気な努力の賜物。でもめちゃくちゃ失敗した。全然練習通りできなかった。でもそれが良いのかもしれない。明日は映画でも観に行こうかと思ってたけど、海でも見に行きてえな。凍えながらビール飲んで、小便を我慢してえ。こんなことなら家でゆっくりしてればよかったって、後悔してえ。俺の人生なかったことに、なるよ、いつだって。一瞬で。それってかけがえのないことかも。音楽ならね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?