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2022年6月25日(土) 晴れ

風の音なんてない。葉っぱが擦れる音だ。俺は木の根にフィットして、背中からそれを聴いている。目の前でスズメがホップする。冬に出会うよりもひと回り小さくて、まるで別の動物のように見える。アリが俺の皮膚を、地面だと思って歩き回っている。水面がきらきら光っている。橋の上を自動車が走っている。この日陰も数時間後にはなくなってしまうかもしれない。輪郭のくっきりとした風景。下から突き上げるようなエネルギーを感じる。上へ上へと向かっていく植物の復讐を感じる。それは太陽の暴力と拮抗している。「ドラゴンボール」で孫悟空とベジータが、両手を掴み合ってギギギとなっているような。俺は図書館が開くのを待っていた。家から持ってきた本でも読みながら時間を潰そうと思っていた。しかし本はカバンの中にしまったままだし、図書館はもうとっくに開いている。アオスジアゲハが飛んでいる。知らなかったその名前を、俺は「あつまれどうぶつの森」で覚えた。
昨日はあまりよく眠れなかった。早く眠ってもそのぶん早く目が覚めるだけだ。いつも3時間ほどで目が覚めて、そのあとは夢を見ながら朝までまどろむ。iPhoneの電源も落としたのにな。もっと眠れたらいいのにな。しかしもう、熟睡こそ叶わない夢なのかもしれない。これ以上睡眠導入剤を増やすのも嫌だし、季節の変わり目はしかたがないのだろう。いまが一年で一番日が長いのだ。夏が来る。スズメだってそうなら、俺だってきっと別の動物のようになっているはずだ。
浅い眠りのなかで、ベランダからガタっと音が鳴ったような気がした。外は風が強かったから何かの鉢が倒れたかもしれない。目を覚ますなりベランダに出ると、いつもと変わらずに植物が揺れていた。ミニトマトの苗はベランダの柵を越えるくらいに伸びていて、頭をハサミで切ってやった。そうしても良いのだと、「菜園ライフ」というテレビ番組で見た。数年前はそんなこと、痛々しくてできなかったけれど、それは植物の生命力を見くびっているということでもある。どれだけ切っても奴ら、別のところから芽を出そうとする。それに、まだ6月だぜ?これからどうなっちゃうんだよ。
今年になって初めて経験したのは「アブラムシ」の発生だ。パクチーが順調に育ち、花を咲かせることに成功した。花が咲くともう、葉っぱは硬くなっておいしいものではなくなるらしいが。そのかわいらしいツボミに集まっていたのがアブラムシで、どうやら彼らは若い芽を好んで食事しているようだった。パクチー以外にも、ナスやオクラの葉っぱの裏側には透明な水玉、ガラスビーズみたいなものがくっついているのに気づいた。それがおそらく卵なのだと思う。だから最近の日課は、マスキングテープでアブラムシを除去することだ。目が覚めたら植物に水をやって、思い出したように自分も水を飲む。
目のまわりが重たく感じてすっきりしないけれど、風があって気持ちいい。まだ6月だぜ。焦らずやろう。そろそろ図書館に行こう。

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