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ヨーロッパ滞在記・イタリア編 2015年3月21日~22日・「ヨーロッパ漫画学院」

 ドイツ・ミュンヘン空港を出てイタリア入りをしたのは予定よりも3日遅れだった。これもルフトハンザ空港のストライキのせいだ。イタリアには2週間ほどの滞在予定だったが、実質10日間ほどになってしまった。
 フィレンツェ空港ではヨーロッパ漫画学院のニコーラ・ロンチ(以下ニコーラ)校長先生と、娘さんであり通訳のベアトリーチェさんが迎えに来てくれていた。日本での9月のワークショップから半年ぶりだった。今度は僕がイタリアまで来て2人に会った。
 ニコーラ校長先生が車を運転して「ヨーロッパ漫画学院」に向かう。学校はピサ郊外にある。車で1時間ほどかかる。
 夜遅いので辺りは真っ暗。しかも学校は郊外の山の中にあるので、街灯がどんどん減っていく。

 学校に到着。辺りは真っ暗。学校の寮がライトアップで浮かび上がっている。

 寮の中、ゲストルームに通される。ここがイタリアでの僕の部屋になる。
 寮は2階立て。1階は食堂とゲストルーム、2階は生徒たちの部屋になっていて、寝泊りをしている。
 3月末までの10日間ほど、僕は生徒たちと同じ屋根の下で共同生活を続けることになる。もちろん日本人は僕ただ一人だ。

 夜遅かったこともあり、僕はすぐにベッドに入って寝た。とりあえずイタリアに無事到着したことはTwitterでドイツ・カールセン社に連絡しておいた。 モバイルWi-Fiとスマートフォンのバッテリーが減っていたので、日本への連絡は翌日へ後回しにすることにした。

 実はこのとき、ルフトハンザ系の航空会社の飛行機が、副操縦士の人為的ミスで墜落するという事故が起きていた。
 僕は毎日twitterで日々の生活をマメに報告していたが、ミュンヘン空港から飛行機に乗って以降、機内ではネットが使えないこともあり更新が出来ないままでいた。更新が止まっていたのと飛行機事故とのタイミングが合っていたので、日本では僕の安否がメチャメチャ心配されていたらしい(^^;)。

 2015年3月22日。イタリアで迎える初めての朝。快晴。
 昨夜ライトアップされていて少々不気味だった寮は、日の光を浴びて美しい石造りの姿を見せている。

 「ヨーロッパ漫画学院」はピサ郊外にあり、風光明媚なトスカーナ地方が一望できる中にある。ここで勉強しているのは一番上級の「本科コース」の生徒たち約25人で、ここで寮生活をしている。他にもミラノなど複数の都市で初級コースなどの教室があるらしい。

 学院入口。看板には「ヨロッパ漫画学院」と書かれている。これはイタリアの業者に依頼して作ったものらしいが、業者が日本語をよく知らないために誤植になってしまったらしい(翌年には正しい表記のものに作り直されている)。

 正門。内側より見る。車が出入りするときはリモコンで門が開閉する。

 丘の頂上に寮がある。

寮の下、丘の中腹に教室がある。

 しかしこんな綺麗な風景の中で漫画の勉強が出来るなんて夢みたいで信じられない。日本の漫画の専門学校は主に都市部にあるので周りはゴミゴミしたビルばかりだし(^^;)。こんな美しいトスカーナ地方の景色に囲まれながら漫画の勉強してたら健康になっちゃうよ(^^;)。

 左側が寮。横に駐車スペースがある。その奥の小屋が画材などが揃っている売店だった。

 売店入口。原稿用紙、スクリーントーン、コピックなどが揃っている。

 寮の裏手。薪などの燃料がある。

 景色が綺麗で環境の良い場所だけど、日本と違って周りには家が少ない。当然コンビニも無い。小さな店はあっても歩いて1時間ほどかかる場所にしかない。当然夜は真っ暗。学院から歩いて離れていって日が暮れたら、夜道を歩くのに懐中電灯を持っていないと命にかかわる(^^;)。日本でいえば郊外にある自動車普通免許の合宿所みたいな所だ(^^;)。

 授業は午前(8時~12時)、昼食休憩(12時~14時)、午後(14時~18時)という構成になっていて、火曜日~金曜日の4日間が授業日になっている。
 寮生活といっても生活の自由度は高い。一週間のうち4日間が授業、それ以外の3日間は休日で、生徒たちは休日を利用して自分の漫画を描いている。寮内には学院専用のWi-Fiがあるので、生徒はネットを自由に使える。
 休日で外出するのも自由。ただ車が無いと街に出られないので、生徒の中には家族に車で迎えに来てもらっている人もいる。ニコーラ校長先生も車で街中に出るので、その車に同乗させてもらっている生徒もいる。

「ヨーロッパ漫画学院」での僕の初めての授業では「MANGAの構造と演出の工夫」の説明をした。

 学院の授業では「キャラクターや背景の描き方」「効果線、ベタフラッシュ、トーン表現の仕方」「ストーリー構成」の授業はある。どれも漫画を描くにあたって重要だけど、実は漫画というのはそれらを全部使うための「構成力」が必要であり、面白く読ませるための「演出力」が必要である。

 漫画の勉強をするのなら例えば「ドラゴンボール」や「ナルト」など有名な漫画を教材にして、面白く見せている工夫を研究をするのが早道だ。しかしそれを無断でプリントして教材として生徒に配ることは著作権的にアウトになる。ただし漫画本をプロジェクターで大写しにして解説するのはセーフらしい。要するにコピーを作ることが著作権的にアウトになるという。

 著作権の問題はいろいろと面倒くさいので、授業では僕の漫画に解説を加えたものをプリントアウトして生徒たちに配った。

 僕の解説は以下のもので、内容を大雑把に説明した。

・インパクトのある導入部をコンパクトに見せる「5W1H」

・読者の興味を引っ張るための「視線誘導」

・読者にページをめくらせるための「引き」と「めくり」

・会話シーンの構図を決める「イマジナリーライン」

・伏線の張り方と回収

・ストーリーの「起承転結」構成

 最後に生徒たちに授業について聞いてみた。上記のどれも初めて聞いた内容だったという。

 イタリアでは日本漫画が熱狂的なブームだ。しかし漫画を描くための入門書はほとんど無い。あっても日本にある入門書をイタリア語に翻訳したもので、そのほとんどが「絵の描き方」に終始したものだった。つまりイタリアでは「絵の描き方」や「ストーリーの作り方」は勉強できても「漫画を面白く読ませるための構成や演出」について解説されている入門書が無いので勉強するのは難しいということだ。

 アメコミ、バンドデシネ(フランス漫画)、日本漫画は、総じて「コミック」で括れるが、欧米では日本漫画を「コミック」とは呼ばず「MANGA」と呼んでいる。それだけ日本漫画は他のものに比べて「独自性」あるということだ。それは「漫画を面白く読ませるための構成や演出」に寄るところが大きい。日本漫画を勉強をするのなら、実はその部分が大事だ。

 漫画入門書が限られてしまうイタリアではそのことを勉強するのが困難だ。だからこそ漫画の専門学校ではその部分について教えることが必要だと僕は思った。

 授業は概ね好評だったようだ。漫画を深く研究し理解することは漫画の面白さを幅広く感じることに繋がる。生徒たちもその考えに納得してくれたようだった。

 午前の授業が終わって昼食時間。この日は「ペペロンチーノ」だった。
 本場イタリアでのパスタだ。メチャメチャ美味い!。イタリアは料理が美味しいと聞いていたが、本当だった(^^)。

 午後の授業は「コントラポスト」について。
 これは僕の著書「絵になるキャラポーズの法則」でも解説しているポージングの基本技術だ。体重を脚の片側に寄せて、肩と腰を相反する傾きを作ることでS字カーブの柔らかい曲線的なポーズを作るというもので、ミロのヴィーナスやミケランジェロのダビデ像にもその技術が使われている。
 ただ、体をくねらせたポーズで立ちポーズを描くことは難しい。そこで「重心」という考えが重要になる。
 「重心」はヘソの奥、体の厚みの半分の位置に存在し、垂直真下の地球の中心に向かって力が働いている。「重心」から真下に矢印を引き、それが「左右の足の間のエリア」に入っていれば、キャラクターは両足で立っていられる。しかし矢印がエリアの外に少しでも出てしまうとキャラクターは両足で体を支えていられなくなる。
 これが立ちポーズを描くときのコツになる。

 午後の授業が終わって夕食。挽肉のソースと玉子を混ぜたものらしい。メチャメチャ美味しい!(^^)。

 食事は皆で揃って一緒に摂る。イタリアは家庭的な生活を重んじる国なので、寮にいる皆は家族のようなものだ。
 しかもイタリア人はお喋り好き。料理も美味しいので、食事の席はとても楽しい(^^)。

 食堂入口近くには大型のテレビがある。食事の後は皆でテレビを観ることが多い。大体アニメ専門チャンネルか映画のDVDを観ている。アニメは「鋼の錬金術師」「金色のガッシュベル」「NARUTO」などが放送されていた。
 イタリアでは基本、夜はくつろぐためのものなので、照明が白熱灯であまり明るくなく穏やかなものが多い。食堂は食事以外の時間は作業場になることも多いが、夜は照明が暗めのため作業がしにくいので、必然的にテレビを観てくつろぐことが多くなる。図書室などは蛍光灯なので、夜に作業をしたい人はそこで行っている。
 僕が寝泊りしているゲストルームは蛍光灯だけど、生徒たちと親睦をはかるためになるべくゲストルームに籠らないようにしている。夜は生徒たちと一緒にテレビを観て、他愛ないお喋りをして楽しんでいる。

 右端のVサインをしている女性が、ニコーラ・ロンチ校長先生の娘さんで通訳のベアトリーチェさん。大学で日本語を専攻しているだけあって日本語が堪能だ。
 基本的に僕の授業のときはベアトリーチェさんが通訳してくれるが、それ以外は四六時中僕に付いてきてくれる訳にもいかない。用事で学院の外に出てしまうこともある。そんなときは僕は拙い英語を駆使しながら生徒たちと交流をはかるようにしている。仲良くなれば生徒からイタリア語を教えてもらうこともある。
 自分だけが日本人で、また日本語が通じないこともあるので、なかなかこういう状況は滅多に体験することができない。唯一彼らとの共通項は「漫画が好きであること」。でもそれだけでも彼らと心を通い合わせることが出来るので、改めて漫画の力って恐るべしと思う(^^;)。

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