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【告知】経団連 21世紀政策研究所 報告書「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」がリリースされました

 過日(6/2),経団連のシンクタンク21世紀政策研究所より政策提言報告書「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」がリリースされました.

 特筆すべきは,同報告書が従来型の財政危機論・財政破綻論を批判し,積極財政を提言するものとなっている点です.緊縮傾向が強いといわれることの多かった経団連で積極財政に関する研究会が開催され,積極財政を提言する報告書がリリースされたことの意味は小さくないのではないかと考えます.論争の潮目は変わりつつあります.

【目次】
第1章 エグゼクティブ・サマリー(永濱利廣)
第2章 ネットの資金需要の不足と国債 60 年償還ルール(会田卓司)
第3章 財政破綻論への反論(永濱利廣)
第4章 新しい価値観に基づく投資の活性化(青木大樹)
第5章 好循環実現のための高圧経済政策と労働市場・社会保障改革(星野卓也)
第6章 公共部門の賃上げ・雇用増、競争政策の強化(鈴木章弘)
第7章 地域経済活性化による中間層再生(飯田泰之)

 研究会では様々な形で財政出動を出発点とした日本経済再生への道筋について議論が行われました.研究会での議論をまとめるにあたって,報告書では2章・3章で積極財政の必要性が示され,4~7章で財政の支出先についての各論が展開されるという構成になっています.
 第1章のサマリーでは各章の内容を執筆者自身が要約しているので,この部分だけでも読んでいただければと思います.

 A4版で200ページ!一般的な書籍にすると300ページ以上となる大著ですので一から読み進めるのは少々手間かもしれません.さらに,「報告書」であること特有の通読しづらさもなくはない.そこでみなさんに同報告書の概要を知っていただくための配信を #シラス経済チャンネル で行いたいと思います.ご興味の向きはぜひ冒頭無料部分だけでもご覧になっていただければと存じます.

 さて宣伝はこのくらいにしまして,本日は告知のおまけ(?)に本報告書でもっとも注目すべき(と飯田が思っている)図を紹介しておきましょう.それが2章の会田卓司さんのワニはいませんでした論.以下,図表はいずれも報告書からの引用です.

 1990年以降,一般会計の歳入と歳出のギャップが拡大しているというワニの口.財政危機を語る人がかならず言及する図です.収入と支出の差がどんどん開いているという図を見ると,まぁフツーは,日本の財政には問題があると感じますよね.

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 ここで問題になるのが日本の財政運営における「60年ルール」の存在です.日本の一般会計歳出には国債の償還費が含まれています.当たり前だと思うかもしれませんが,これは奇異なことなのです.

 日本では現在の負債を60年後までに完済することができるように国債の元本を毎年償還しています.しかし,60年後に借金をゼロにする必要はありません.住宅ローンと異なり,日本政府が●●年後に定年したり死んでしまうことはありませんからね.
 これがわかっているので,簡単化すると,日本政府は国債残高の数%を毎年償還(形式上は返済)してほぼ同額を国債発行(形式上は借入)によって賄う--つまりは債務の借り換えを行っています.どうせ借り換えをしている,さらに別に満期がきたわけではないのだなら借換をする必要もないのに,償還の部分は歳出(=出費)扱いをして,一方の借り換えの部分は歳入(=収入)として取り扱わない.この不可思議な慣習が生んだのが「ワニの口」なのです.

 ちなみに米国の予算ではこのような不思議な取り扱いは行われません.景気過熱を防ぐために積極的に債務償還が必要……といった場合以外では歳出として扱われるのは利払い部分のみです.つまりは下図の赤色部分だけ日本の一般会計歳出は「盛られ」ている.

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 この債務償還費部分をのぞいた,つまりは米国等の一般的な形式で歳入・歳出の推移をみてみると……

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 ワニなんてどこにもいないじゃありませんか! 赤線とグレー線の差をみるとコロナ前時点で両者の差はかなり縮まっていることがわかります.ある程度の景気が維持されればワニの口はなんて生じない,一時的に生じてもちゃんと閉じていくものなのです.

 コロナで大規模な財政拡大を行った米国でも,財政環境の好転が伝えられる.しっかりとした財政出動は,それが経済を立て直すことに資するならば,最大の財政再建手段なのかもしれない…………ワニはいませんでした論は財政政策の必要性と実効性ある支出先選定の重要性を私たちに示してくれるのです.

※ちなみに研究会でこの話を聞く前まで,私は(現実問題として借換が行われているのだから)60年ルールの是非にそんなに論争のリソースを割く意味はない……と考えていました.しかし,世の多くの人の緊縮バイアスを育んだワニの口論が60年ルールの産物だったとは.税収と歳出くらべるというアンバランス……当たり前すぎてかえって気づけないものですね.


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