見出し画像

レコードプレーヤーの軸

レコードプレーヤーの軸は、毎分33.3回転をムラなく、音も立てずにギクシャクせずに、スムーズに回っている。

これを素人の私がゼロから作ろうと考えたら、途方もない努力と知恵が必要なのだろうなぁと想像している。人々は工業の恩恵を色々なところで受けているのに、殆ど気がついていない。

まず、軸の素材は何を使うのだろう。
そして、その素材を旋盤で規格に合ったサイズに削り上げる。
レコードを載せる円盤を支えるためにその円盤との接点は精度のあるテーパーがかかって削られている。
軸を被せる軸受けがあり、きっとその底にはベアリングが入っていてオイル、グリースまみれになって抵抗が最小限になる状態で、そのボールベアリングの頂点が、中に挿入された軸の末端と辛うじて接している。
軸受けの中には、オイル、グリースが封入されていて軸を挿入すると隙間からは漏れない様なシーリングがされているのだろうか?
この軸受けがブレない様にレコードプレーヤーの本体としっかり固定されるためのねじ止めできる固定具を軸と直角に取り付けなくてはいけない。

そして出来上がったこの軸は、毎分33.3回転を一時間で1998回転、一日二時間を毎日一年間回した場合、約145万回転、それを10年使って1450万回転の間、摩耗せずに、ひたすら回る事に耐える素材が必要だろう。

軸の周りにはオイル、グリースが塗布されていたとしても、ベルトドライブで常時片側から偏った力で引っ張られて回転するわけだから、軸のある一箇所の縦方向に絶えず力がかかっているのだろう。片減りのしない丈夫な物でなくてはいけない。

子供の頃、京浜工業地帯にある中小企業では、この様な部品を精度の高い技術で、日々作成していたのだろうか?

この歳になって、旋盤から油まみれになって出て来た削りかすが山積みになったゴミ箱がある、油の匂いの漂う、小さな町工場が思い出される。

あの頃の工場の親父さん達がいたから、今もいとも簡単に目の前で33.3回転を回っているレコードプレーヤーがあるのだろうなぁと回想するのである。