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薪の気持ち

私は、かねてから、物事は全て自然現象との折り合いだと考えてきた。
真空管アンプであっても、電気、電波という自然の仕組みを人間の都合の良いように加工、利用させてもらっているから作ることができる。

さて今日の私の頭の中は、この寒い冬になり、どうしたら薪ストーブを思い通り燃やしてあげることができるのかという事が大きな課題となっている。

毎日、マッチ一本で薪ストーブを立ち上げる事という目標は、まずクリア。
さて次は、一年乾燥のために寝かしておいた薪達を如何に効率よく燃やしてあげることができるかという事が難しい。

もちろん、立ち上げ時は、空気口全開、排気口全開で、新聞紙のような薄い紙に着火した後、小枝に火を移し、その上や、周りにある小さな針葉樹の塊が燃え出すのを待つ。その針葉樹のいくつかの小さな塊がしっかりとした火になり、少し熾火ができてくれば、もう消えることがなくなるので、大きめな針葉樹を焚べて庫内が炎で真っ赤になるのを待つ。
そして、煙突の付け根付近にある、温度計が最適な燃焼温度に達してから、空気口、排気口を極限まで絞る。
こうなると、今度は楢を代表とする広葉樹の出番になり、炉内を最適な温度でできるだけ長い間保つことが要求される。

この方法は、あくまでも我家にある1cm程の厚みの鉄板でできているストーブでの火付方法だ。鋳物でできている、高価でデリケートなストーブの場合や、北欧などにあるお洒落なストーブの場合の扱いはまた違うはずである。

そしてしばらくすると、炉内で二次燃焼が最適化されて、完全燃焼に近い形で排気が煙突から出て行く。

もうこうなると、ストーブ自体が熱しているだけだなく、少しずつ背面にある蓄熱体である煉瓦自体も暖まってきて遠赤外線効果が家全体に広まり始める。

これが、一連の立ち上がりで、早い時は15分、時間がかかる時は、30分、いや一時間経っても上手く立ち上がらないという時もある。

日々、努力を重ねるものの、その日によって立ち上がり方が違うのである。

やはり、その日に燃やす薪達の気持ちを理解して、どのように扱ってあげると一番よく燃えるのかを考えることが大事だと思う。

無闇に炉内に突っ込むだけでなく、燃えやすいような置き方、すでに燃えて真っ赤になっている熾火との関係が大事なのである。空気の対流を薪に沿わせて火の回りを良くすることも必要である。
木の表皮面、斧が入った割れ目の入った面、そして、個々の形状によっても、燃え方は全く違うので、どの面を、熾火に合わせてあげたら効率が良いのかなど、考えて色々試してみるが、まだ、薪の気持ちをしっかり理解するには、修行が足りないようである。

そんな格闘を日々繰り返しているが、火が立ち上がり、遮熱板で蓄熱体でもある背後の煉瓦が温まり、部屋中がぬくぬくしてくると、ガラス越しに燃え上がる火を眺めながらなんとも言えない至福な時を過ごすことができるのでやめられない。

面倒くさいと考えず、自然との対話をして楽しみながら生活し、春の到来を待ち侘びるというのも幸せを感じる大事な要因なのだと確信している。