「結晶性知能」とシニア向けビジネス
最近、「流動性知能、結晶性知能」という言葉をよく聞きます。なんでも、「流動性知能」とは、情報を獲得し、それをスピーディーに処理・加工・操作する知能のことで、暗記力・計算力・直観力などが該当するそうです。そして、それは、10代から20代にピークとなるそうです。一方で、「結晶性知能」とは、経験や学習などから獲得していく知能のことで、言語力に強く依存し、洞察力、理解力、批判や創造の能力といったものが該当するということです。「結晶性知能」は、経験や学習によって20歳以降も上昇をつづけ、高齢になっても安定しているといわれます。
私は、最初、「結晶性」という言葉を聞いて、直感的に怪しさを感じてしまいました。結晶化(クリスタライゼイション)とは錬金術の言葉です。化合物によって金を作り出そうという、それ自体が非科学的な匂いを含んでいます。
まず、この理論は、1967年にレイモンド・キャッテル(Raymond Cattell)によって提唱されたものとされます。当時の心理学の分野では、現在の主流といわれるカール・ロジャースらの臨床心理学が台頭する前で、フロイトやユングの精神分析が幅をきかせていた時代です。ユングも錬金術を扱いますから、キャッテルもユング派の影響を受けた一人ではないかと、Wikipediaを読んでみましたが、どうもそうでもなさそうです。
キャッテルの理論をサポートする文献はないかと探してみましたが、有効な手掛かりはつかめませんでした。ただ、Googleで検索して、気付いたのは、この理論を都合よく使ったシニア層向けのビジネスの誘導を目的としたページがやたら多いことです。そして、いくつかヒットした論文はそのほとんどが、その存在は認めつつも、どちらかといえば否定的というものばかりでした。
否定的な側面については、レイモンド・キャッテル自身も、しっかり但し書きを入れてます。
「流動性知能」は、文献により多少のばらつきがありますが、凡そ10代後半から20代前半にピークを迎えるとされます。上のキャッテルの言葉は、そもそも、若い時にしっかり勉強していないと、結晶性知能も低いままなんだよ、と聞こえてきます。つまり、「結晶性知能」は存在するとしても、地頭が良いか、その証左としての学歴を持った人でないと、あまり意味をなさないもののようにとらえられます。バイオグラフィーを読めば分かりますが、キャッテルは優生思想をもった白人至上主義者です。上のウィキペディアの引用箇所「知能を発達させる環境」に、なぜ環境?と、違和感を覚えた人はきっとそのせいでしょう。
ということで、「結晶性知能」の正体を突き止めようとしてきましたが、おぼろげながら、その陰影が見えてきたような気がします。
「結晶性知能」とは、①若い時、無茶苦茶勉強した人が(勉強できる環境に生まれ付いた人が)、歳をとった際も言葉だけは、かろうじてしっかりしている可能性はある。⓶歳をとっても口は達者(若い時と変わらない)という人は、(平均よりも裕福な家に生まれ)若い時、無茶苦茶勉強していた可能性がある。
「歳をとっても『結晶性知能』は伸ばしていける」と言っている、ビジネスは正直、怪しい。理論の一部を切り取って、自分たちの都合のいいように解釈しているように思います。
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