見出し画像

人事労務担当者のための労働法解説(9)

【試用期間について】
新たに採用した労働者に対して試用期間に設けている企業は多くあると思いますが、試用期間だからといって、自由に本採用拒否ができるのでしょうか?


1 試用期間とは何か?

試用期間とは、労働契約成立後(採用後)、使用者が労働者の職務能力や適格性を判断し、正社員として本採用するか否かを決定するための期間です。

試用期間は、3か月~6か月程度の期間を置き、就業規則に、「試用期間満了時までに従業員として不適格と認めたときは解雇し、または本採用しない」と定められることが通常です。

「試用」という本来の意味からいえば、試しに雇用してみて、不適格であれば本採用拒否ということになりそうですが、後に述べるように、試用期間満了後の本採用拒否には解雇権濫用法理が適用されるため、簡単に本採用拒否が認められるわけではありません。

そのようなことから、試用期間は、実際には、本採用後の職務の前段階としての教育訓練期間ととしての側面が強いといえるでしょう。

2 試用期間に関連する法規制は?

試用期間の定義や法的性質について定めた法律上の規定はありませんが、労働基準法21条但書第4号において、試用期間の14日を超えた後に解雇(本採用拒否)する場合には、解雇予告または解雇予告手当が必要となることが定められています。

試用期間の法的性質を定めた規定はありませんが、三菱樹脂事件判決(最高裁昭和48年12月12日判決)は、試用期間については解約権留保付労働契約であると判断しています。

この考え方を前提にすると、試用期間であっても労働契約が成立していることになるため、試用期間満了時における本採用拒否は、解雇(←解雇権濫用法理が適用される)であると解されることになります。

すなわち、試用期間満了後の本採用拒否については、解雇権濫用法理が適用されることになるため、簡単に本採用拒否をすることができないことになります。

この考え方は、現在においてもかかる最高裁の判断が定着しています。

3 本採用拒否が認められるための要件は?


試用期間満了に伴う本採用拒否には、解雇権濫用法理が適用されます。

前述の三菱樹脂事件最高裁判決は、

「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」

と判示しています。

三菱樹脂事件最高裁判決も述べていますが、試用期間満了に基づく本採用拒否は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきとされています。

4 本採用拒否(試用期間中の解雇)が適法とされた裁判例


(1)アクサ生命他事件

アクサ生命ほか事件(東京地裁平成21年8月31日判決・働判例995号80頁)では、中途採用の事例について、以下の事実を理由として試用期間中の解雇を適法としています。

①解雇された会社と訴訟係争中であることを採用面接において意図的に隠したこと

②担当する業務の企画ができなかったり不相当な記載をしたプレゼンテーション資料を作成するなど芳しくない勤務態度が認められること

③上司との中間レビュー面談、研修への参加辞退の要請に関し、過剰な反応を示していることとも併せ、上司である上司や同僚ともコミュニケーションがうまくいっていなかったこと

④「Hジャパン」なる肩書きを付して自宅住所を業務上の住所として副業と見られる活動を行っていたこと

⑤自宅から業務とは無関係の大量のデータを添付したメールを被告会社のパソコンに送ったり、被告会社から自宅のパソコンに送信することを繰り返していたこと

(2)大阪地裁平成27年12月10日判決(判例秘書)

この裁判例では、以下の理由を認定した上で、試用期間中の解雇を適法と判断しました。

①無駄話が多く、業務とは無関係の自分の経歴や知識の話を延々と繰り返し、業務に支障が生じていたこと

②仕事が遅いことや仕事のミスを認めずに言い訳を繰り返すことなどについて複数の取引先から苦情が寄せられ、担当者を変えて欲しい旨の申し入れがあったこと

③原告は通関士の有資格者であることを評価されて採用されたものであり、いわゆる即戦力として期待されていたこと

5 本採用拒否(試用期間中の解雇)が違法とされた裁判例


(1)オープンタイドジャパン事件

オープンタイドジャパン(東京地裁平成14年8月9日・労判836号94頁)は、事業開発部長として年俸1300万円で中途採用された原告について、以下の①~④の理由によって、試用期間2カ月余りで解雇されたという事案です。

①韓国出張の際に訪問した企業13社に対し、訪問翌日に挨拶状を送付すべきであったのに8社に送付したにすぎず、提案書も1社にしか送付しなかったこと

②O社製品を販売するためには、同社とイー・サムスンジャパンとの間の販権契約を解約し、同社と被告との間で販権契約を締結する必要があったが、社長からこの解約に関する措置をとるよう指示されたにもかかわらず、適切な措置を講じなかったこと

③上記①の韓国出張にあたり作成した被告の紹介文が、形式・内容とも不適切であり、使用できないものであったこと

④韓国では重要な行事とされている旧正月に帰国予定であったO社の社員に対し、さほど重要でない取引先への訪問を強要し、そのため、同社員が帰国できなかったこと

これに対し、裁判所は、

①については、挨拶状を送付していない企業については、既に交渉が始まっていたことから、挨拶状の送付状況から業務が不良であると認めることはできない

②については、社長からの指示は従前聞いていた話と異なることから聞いた話と異なることから、指示の趣旨を理解できないまま、イー・サムスンジャパンの取締役であるAに対して社長からの指示を伝えたが、その後、状況を理解し、社内で対策会議を開く等して、今後の対処方法を検討したことが認められるため、この対応をもって業務が不良であると認めることはできない

③については、原告が作成した英文の紹介文が形式・内容において不適切であると認めるに足りる証拠はない

④については、取引先とのミーティングは、取引先の取締役も参加する重要なものであるとして、これに参加するよう求めたものであり、不必要・不適切とはでは認められない

とし、結論として原告の業務能力又は業務遂行が著しく不良であるとまでは認められず、試用期間中の解雇は違法無効と判断されました。

6 今回のまとめ

試用期間満了による本採用拒否は、解雇権濫用法理の適用を受けます。

試用期間満了による本採用拒否は、通常の解雇と比べると広い範囲で解雇が認められるとされていますが、裁判例をみる限り、些細なミスや能力不足のみでは認められない傾向にあるといえるでしょう。

解雇理由を基礎づける事実は、使用者側が立証責任を負います。とりわけ、能力不足を理由とする場合には、相当丁寧な立証が必要となるため、注意が必要でしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?