見出し画像

『 ぼくにとって、とても大切なひと 』

このあいだ、趣味の集まりの先輩、Mさんに電話をする用事があった。年齢は自分より20うえ。とてもチャーミングなおじさま。次の催しに向けての、仕事ではないが業務連絡だ。あらかじめ先輩が段取りをしてくれていたお陰でひと安心。僕はそれを確認しながらメモをとり、5分足らずで用件は済んだ。ありがとうございました、それじゃあ失礼しますと伝えたとき。

『 最近どうですか? 』

尋ねられた。最近どう、って質問が基本的に苦手な僕。なにについて話せばいいのか検討もつかない。以前、同じような質問を誰かにされたときは「どう、って何がですか?」と訊いて、おかしな雰囲気になったことがある。一生懸命考えを巡らせる。そうだ、最近はあれがあった。

「 アルコールの量がコントロールできないので、今度、依存症外来に掛かることに決めたんです 」

どうだ。ちゃんと返事ができたぞ。けど、依存症だとか言ったら、引かれるだろうか。いや、器のおおきなMさんに限って、そんなことはないだろう。そうですか、それは前向きだ、いいことだ……とでも答えてくれるに違いない。よね?

『 お酒のことで困っていたんですね。○○さん(僕の名前)は、ぼくにとって、とても大切なひとだから心配になりました。よくなるといいですね 』

お、なんだなんだ。クサイ台詞か。人たらしの常套句か。どうせ誰にでも、皆にそう言ってんだろうよ。そんなことはバレてるぞMさん。けど、なんだか照れる。なんだか嬉しい。
――なんてことがあったものだから、ここ数日、それを真似してつかっている。

『 ○○さんは、ぼくにとって、とても大切なひと 』

言うのは凄く恥ずかしい。気持ちの面では嘘が半分の言葉で、罪悪感も少々。けど、自分が言われたときに、とても温かい気持ちになれたし、使えるようになりたいなって。最初は、ぎこちなくっても、意識的に繰り返していけば、馴染むに違いないとも思って。

何度か試したけど、驚くほど喜んでくれるひともいた。あと「気持ち悪い」って返してきたひともあった。けど、意外と嬉しそうな表情にも見えて。自分も、さきほど書いた通りに、瞬間的には拒否反応がでたし当たり前の反応か、とも。

あと、本当ですか?と真面目に受け取ってくれるひともあった。こういう反応があると、挨拶が半分で言ったはずの自分の側も、本当に大切なのだと、不思議な話おもえてくる。

苦手なひとや、粘着質なひとには、間違っても言ってはならない気もするが、友達や、仲のよい知り合いにはこれからもつかっていきたいなとおもう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?