料理って意外とアバウト

ドイツで2ヶ月生活して決定的に変わったことは何か。それは「料理」ができるようになったことです。それがどうしたと思われるかもしれませんが、何を隠そうこの私、「料理」はこの40年ほとんどやったことがなかったんです。料理に関する苦手意識は僕にずっとつきまとってきました。

その源を自分なりに分析すると小学校の家庭科の授業までさかのぼります。その日は「ゆで卵」を作る授業で、詳細は忘れてしまいましたが、水の量や水に入れる塩の量を計測し、さらにゆでるプロセスを細かく段階に分け、ここは何分強火、ここは何分弱火といった具合にストップウォッチで測っていたという記憶が残っています。

この時に僕の脳裏に強烈に植え付けられたのは料理というのはものすごく厳密な作業で、すべての材料の量を正確に計測し、細部のプロセスを秒単位で正確に行わないと大変なことになる、なんなら最悪の場合死に到る(笑)。そのくらいの強迫観念です。ダメだ、これはもう僕の手に負える代物ではないと。

あれから何十年も経過してこの巨大な敵「ゆで卵」に向き合うことになり、かなり腹をくくって、恐る恐るやってみて気づいたことがあります。

ゆで卵の作り方

1 鍋にお湯を沸かす

2 卵を入れる

3 10分位待つ

以上

超簡単じゃね〜かよ。何だったんだよ、あのストップウォッチ。

料理ってかなりアバウトにやっても大丈夫。少なくとめったなことで死に到ることはないと気づいた瞬間、料理に対して持っていた僕の心理的な障壁が一気に取り除かれ、料理がとても楽しくなってきました。

僕の料理に対する苦手意識の責任のすべてをあのときの家庭科の先生に背負わせるつもりはないのですが、現在人にものを教えるという仕事をしている身から思うのは、あのとき家庭科の先生はプレゼンテーションの仕方を少し間違ったのだと思います。

今僕がゆで卵の作り方を誰かに教えるなら、まず一番大きな枠を先に見せる。つまり先に書いたような最も単純な3ステップを教えてあげ、なんならそれで一度やらせて見せる。そうすれば多少の出来の善し悪しはあるにしてもとにかく「できる」が体験できるのです。そしてその後に「よりうまくできる」ためのディテイルを与えていけばいい。まず大枠、そのあとにディテイル。この順番はすべての物事を教える基本だと僕は思っています。今思うと家庭科の先生は大枠を与える前にディテイルを与えてしまった。

僕の場合は「料理」でしたが、これを「数学」に置き換えたとき、同じ理由で苦手意識を持っている人は意外と多いのかもしれないなとふと思いました。



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