ルールと運用

毎回、海外遠征のたびに悩まされるのが航空会社ごとに決まっている手荷物、預かり入れ荷物のサイズと重さ規定。規定を越えてしまうと決して安くない超過料金が発生してしまうので、道具を軽くなるように作り替えたり、時にはやる演目を変更したりもしながら、なんとか定められた範囲に納めることを考えます。

今回の旅では機内に持ち込む手荷物の分量が多くなってしまったので、この機会にと機内用のスーツケースを購入することにしました。

機内に持ち込む荷物は「飛行機の棚に入るサイズ」でなければいけないので、かなり細かな大きさ制限が設けられています。分かりやすいところではスーツケースの3辺の長さの和は115cm以下という規定があります。その範囲の中でなるべく大きなものがないかと店員に尋ねたところ、ちょうど115cmぴったりのものがあると紹介してくれました。

確かに大きくて必要な機材も余裕で入りそうなサイズ。とても気に入ったのですが、さらにそのスーツケースの「売り」として店員が説明してくれたのは、側面についているファスナーを開けると奥行きを僅かに広げることができるというものでした。なるほど、これなら帰りに荷物が増えても大丈夫。

んっ!?

ちょっと待って。すでに通常の状態で機内に持ち込めるぎりぎりのサイズなんですよね。これって奥行きを広げれば、機内に持ち込めなくなるってことじゃないの?おそるおそる聞いてみると

「はい、広げてしまうと機内に持ち込めないサイズになりますね」

という返答。待て、待て、じゃあこの機能、全く意味をなさなくない?

ただね、僕はその店員の受け答えからある種のニュアンスを感じてしまったのです。それはおそらくこういうこと。

原則としてはダメ。ただ、、

(実際にはそれで断られることは少ないです)

誤解なきよう。店員はそんなことは一言も言っていません。それどころか明確に「持ち込めない」と言いました。ただ僕も経験上知っていますが、航空会社の受付で手荷物の容量をセンチメートル単位ではかられることはまずないのです。「飛行機の棚に入るサイズ」という大前提が守られていれば2, 3cmのオーバーであれば見逃してくれることがほとんど。いわば暗黙のグレーゾーンが存在しているのです。

もちろんそのグレーゾーンを前提に商品を作るわけには行かない、でも顧客のニーズには答えたい、それで生まれたのがこの「ぎりぎりのサイズ+α」の商品なのではないかと推測してしまうのです。

繰り返しますがこれはあくまで僕の想像に過ぎません。ただ、それが仮に正しかったとして、「こんなのは姑息なやり方だ」と非難することもできるでしょうが、僕はこれは「大人のさじ加減」の範囲だと考えます。ルール上は明確な線が引かれていても、それを運用する上ではその線には多少の幅がもうけられていて、それを公にせず、それにつけ込んだりもしない適切な距離感の中で社会が潤滑に回転していることもあるのだろうなと。

結局そのトランクを購入しましたが、その禁断のファスナーを開ける予定は今のところありません。ただ開けるのであれば、仮に航空会社に規定外だと指摘されたときは素直に認めて超過料金を払う覚悟をきちんと持った上で。それはグレーゾーンに踏み込む上での責任であるなとは考えています。





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