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『誰もいないショータイム』

これは、子どものおばけ・パッチくんがニンゲンの女の子と仲良くなるより、もっと前のお話。

―――――
―――

ニンゲンの世界のすぐとなり。
おばけがいっぱいいる世界。

おばけの街「ノーライフタウン」

この世界にはいろんな街があるけれど、中でも大きな街が「ノーライフタウン」
とっても高い時計塔のある街さ。

この街には、おばけの子どもがニンゲンの驚かし方を勉強する「おばけの学校」があるんだ。
おばけたちにとって「ニンゲンを驚かすこと」は楽しくてたまらないことだし、仕事にもなるからね。

そのおばけの学校に、自分の姿を透明にできる『ハイデル』というおばけの子どもがいました。

ハイデルはニンゲンを驚かすことがとっても得意。
なんてったって透明になれるからね。

透明になって……
そーっとニンゲンに近づいて……
目の前で姿を現して「ワッ!!!!!」

先生からは褒められて、同じおばけの子どもたちには尊敬される。
「ハイデル、今日も上手にニンゲンを驚かせたわね!」
「ハイデル君はカッコいいや!」

みんなに褒められるのはとっても嬉しいんだけど……。

だけどね。
ハイデルには、ニンゲンを驚かすことよりもやりたいことがある。

おばけの学校にいる先生も。
周りにいるおばけの子どもたちも。
そしてニンゲンも。


みんなを笑顔にしたいんだ。


ある時。
普段は透明になってないハイデルは、一緒に勉強しているおばけの子どもにマジックを披露した。
一生懸命練習したマジックだ。

おばけの子どもは驚いてくれたけど、笑ってはくれずにこう言った。
「わーすごい!!透明にならなくても、不気味な姿をした君がこんな技を披露したらニンゲンはビックリしちゃうね!!」

ハイデルは透明になれるおばけ。
その本当の姿は、ニンゲンも、おばけすらも、不気味と思ってしまう姿。
だからこそ驚かすのが得意。

でも、どうしても忘れられない。

驚かす勉強だと、
先生やおばけの子どもと一緒に行った、ニンゲンの世界にある「サーカス」というもの。

光り輝く舞台の中で、イキイキと技を披露するニンゲンの姿を。
技が繰り出されるたびに驚きと笑顔で満たされるあの空間を。

ハイデルは、どうしても忘れられない。

「やっぱりボクはおばけもニンゲンも笑顔にしたい。そのためなら、ボクは自分の姿を消してやる」

その日から、ハイデルの本当の姿を見たおばけは誰もいない。
ずーっと見てないから、おばけの子どもたちの記憶からもなくなった。
そのうち名前すら……。

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―――

おばけの子どもたちが学校を卒業した日。

1人のおばけが「ノーライフタウン」の劇場で、ショーをするみたいだ。
街中にビラが配られていたけど、知らない名前のおばけだし、誰も興味を持ってない。

『伽藍洞御礼』
そんな張り紙が劇場の入り口に張り出された。

照明が爛々と舞台を照らす。
とても静かな、空間。

カツン、カツンと。
靴と床が音を鳴らしながら1人のおばけが舞台に立つ。

「うん、まずまずだね!ここからみんなを笑顔にできると思うとワクワクするよ!」

透明な姿にシルクハット、黄色い靴に紫色の蝶ネクタイは両手を挙げてこう言った。

「さぁ、誰もいないショータイムだ!」

おしまい

『Showtime with no one』


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