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嫉妬の人

その男の嫉妬が火だったならば、世界は跡形も無く焼き尽くされ、あとには何も残らないだろう。 嫉妬は妬み。嫉妬は嫉み。嫉妬は怒り。
嫉妬は憎しみ。

男の一日は妬みと嫉みによって始まる。
朝、ニワトリの鳴き声で目が覚めた男は、その日最初の嫉妬を覚える。 こんな朝からあんな元気に声が出せるなんて。むかつくむかつく。

男は朝ごはんのスクランブルエッグにも嫉妬を覚える。 こんなぐちゃぐちゃなのに、こんなにもおいしいだなんて。

男は自転車にも嫉妬を覚える。 こんなスムーズに移動することができるだなんて。 疲れないだなんて。

男は隣の席の小山田にも嫉妬を覚える。 勉強もスポーツも全然できないのに、恭子と付き合ってるなんて。

男は満天の星空にも嫉妬を覚える。
色んな感情を吸いこむような美しい星空。
絶対に自分には手の届かないもの。

男は寝る。夢の中でも彼の嫉妬は続くのだろう。

この男の嫉妬が火だったならば、世界は跡形も無く焼き尽くされ、あとには何も残らないだろう。
だが、この男の嫉妬がもし、他者への理解、称賛へと変わり、自らを高めるためのエネルギー源になることがあれば、世界は驚くほど輝きを増し、一瞬一瞬を噛みしめるように生きていけることだろう。
嫉妬は想像力。嫉妬は他者への興味。嫉妬は果てしなく続く世界への動力。


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