東京の空


私はキャリーケース2つを持って北海道から上京した。東京にはよく遊びにきていたので友達の家に少しずつかせてもらっていたのだが、、、

新しい自分、になれると思うとわくわくした。早く新しい自分になりたくて、昔の自分は捨てたかった。(先に言うが、学生時代に嫌な事があった訳ではない)誰も私の過去も私の事も知らないのだから、東京に来る事が正解で東京に来る事で私は私になれると思っていた。だから、一刻も早く早くそんな風に思っていた。新しい環境に緊張よりかは、さあやるぞ。そんな気持ちのが勝っていたと思う。

有難いことにも、両親どちらとも引っ越しの手伝いをしてくれるというので、本当に久方振りに3人で過ごした。(私には弟が一人いる)3月の北海道はまだ雪が積もり寒いというのに、東京は暖かかった。同じ日本でこれほどに違うのか、、、改めて実感する。

仕事が決まらなかった(正確には、働きたい場所で働くためアプローチを続けていた)私は、近くにあった古着屋さんでアルバイトを始める事にした。それだけじゃやってけないとわかると、同時に喫茶店のアルバイトの掛け持ちをした。

何かから逃げるように、何かを恐れるように、私はじっとしている事が怖かった。遠くに遠くにいってしまうみたいな、何かが襲ってくるような。だからそれから逃げるように少しでも近づけるように上京した次の日にはアルバイトをいれていた。今思えば、そんなに根詰めて仕事する事などないと思うけど、当時の私はそれが良かった、それで良かった。

手伝いにきてくれた両親は北海道に戻るというけど、空港まで見送りにいかず、玄関先で見送った。これを最後に、待ちわびていた東京生活、新しい生活が始まった。弟を一人っきりにするのは可哀そうだからと、ばあちゃんが家にいてくれていたので、見送った事を伝えに電話を掛けた。


「今、見送った」「ああ、そうかい。一人暮らし頑張ってね」
「、、、、、」「あれ、切れちゃったのかな?」


電話は切れた。私は、あれほどに待っていた東京生活に少し、寂しさを感じて涙を流した。
今だからいうけど、電波とかではなく声が詰まっちゃったんだよな。

涙を拭いて、憧れの東京でなりたい自分になるための生活が始まった。
東京の空は曇っていた。




#エッセイ #随想録 #処女作 #故郷東京

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