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SET で感じた普遍的な笑い

お笑いと普遍性について
長々と書いてきましたが、

本来、私が書きたかったのは、
ここからの話です。

前回は YMO のアルバム
『増殖』に収録された
スネークマンショーの
コントを紹介しました。

前回の記事を要約すると、
スネークマンショーのコントは、

ナンセンスギャグという点では、
時代が経っても古びない
普遍性を感じさせますが、

時代背景を濃厚に反映した
舞台設定には、
時代性が強く感じられ、

その時代を知らずしては、
完全にはおもしろさが
わからないという話でした。

'83年に発表された
YMO の散開アルバム
『サーヴィス』も

『増殖』と同じく、
音楽とコントが交互に
収録されたアルバムでした。

こちらのアルバムに
参加したのは、

三宅裕司率いる劇団
スーパー・エキセントリック・
シアター(SET)です。

劇団スーパー・
エキセントリック・シアター

'79年設立。
「ミュージカル・アクション・
 コメディ」をモットーに、
公演を続けている。

SET がアルバムに参加した経緯は、
彼らが高橋幸宏の
オールナイトニッポンに
レギュラー出演していたことでした。

もともと、高橋幸宏は、
イギリスの
モンティ・パイソンなどの
お笑いが大好きだったんですよね。

そんなこともあって、
ラジオの1コーナーに
SET が起用されたのでしょう。

(のちに高橋幸宏は、
 SET のアルバムもプロデュース)

ちなみに、私が
21歳の頃にお笑い芸人を
目指してみようと思い、

最初に考えたのが、
SET でした。

(入団するうえで、
 金銭的な負担が
 大きかったので断念)

それはひとえに、
私が高校時代に YMO と出会い、
その中で SET のコントとも
出会ったからです。

三宅裕司はもともと、
「普遍性」を意識して
活動されていた方でした。

『情熱大陸』に出演した際に、
三宅裕司が語っていた
自身の舞台のモットーに、

「下ネタをやらない」
「時事ネタをやらない」
「客いじりをしない」

というものがありました。

この中で、特に
「時事ネタをやらない」
というのは、

作品の普遍性を語るうえで、
とても大事なことです。

時代性が強いネタ、
つまり時事ネタを
取り入れると、

お客さんを掴みやすい
というのはあるんですが、

一方で、ネタの鮮度は
早めになくなってしまい、

年数が経つと、
あっという間に使えない
ネタになってしまいます。

もともと、三宅裕司は、
大学時代は落研に
入っていたほど、

落語にも影響を受けた方なので、
その辺のことを
意識したのでしょう。

ここにくるまでに、
漫才ブームの頃の漫才、
『ひょうきん族』
スネークマンショー

といったものを
紹介してきましたが、

いずれも時代と
強く結びついた笑いです。

そういった笑いを
リアルタイムでは知らず、

20年後に知った私には、
完全には魅力を
理解できなかったんですよね。

ところが SET のコントだけは、
同時代の作品ながら、
一味違いました。

三宅裕司が挙げた
モットーのとおり、
時事ネタをやっていないので、

時代が経っても、
笑いの部分が
廃れていないんです。

大体の音楽雑誌で
見られる音楽評論家の
方々が書いた

これらの作品に対する
評価はズレているな
と思っていました。

ほぼ100%といっていいくらい、
YMO の作品に収録された
コントの評価は、

スネークマンショーの方が
高いんです。

(なんだったら、
 SET はボロクソに
 書かれている場合も)

でも、普遍性、
すなわち芸術性
という観点でいえば、

私の中では、
SET の方が合っています。

わかりやすく言えば、

スネークマンショー、
SET のコントのそれぞれを
英語に翻訳してみれば、
よくわかるでしょう。

たぶん、
スネークマンショーの方は、

英語にして外人に伝えても、
なんのことかさっぱり
わからないでしょう。

(前回紹介したコントは
 全編英語だが)

SET の方は、
英語に翻訳できるし、
それなりにおもしろさが
伝わると思います。

こういうのを
「普遍性が高い」
と言うのです。

20年後の私にも
しっかりおもしろさが
伝わったのは、

SET のコントに
普遍性があったからなんですよね。

スネークマンショーの笑いは、
'80年代を知っている
日本人にしかわかりません。

(もちろん、
 ナンセンスの部分には、
 普遍性が感じられるが)

限定的な笑いなんです。

どっちがいい悪い
という話ではなくて、
あくまでも方向性の違い
でしかないのですが、

なぜか、音楽評論家の方々は、
SET を酷評されるので、
弁護したい気持ちが
前からありました。

限られた少ないものさしだけで、
論評するのは、
やはり肯定できません。

(そういう論評は
 得てして攻撃的になりがち)

ちなみに、私が昔から敬愛する
ウッチャンナンチャンも
はじめて高橋幸宏にあった時、

「SET が参加した
 『サーヴィス』で
 はじめて YMO を知った」
と言っていたそうです。

ウッチャンナンチャンも
SET に近い笑いをやるコンビで、

ウッチャンはコンビを組む前に
SET に入ることも考えていた
という話を聞いたことがあります。

ちなみに、
私も最初にお笑いをやろう
と思った時に
SET を目指したのは偶然です。

(ウッチャンも入ろうとしていた
 というのは、
 ずいぶん後になってから知った)

お笑いに限らず、
時代性を強く反映した作品の方が、
短期的な評価を
受けやすい傾向があります。

どんな分野においても、
時代性と普遍性を
両立させるのは、
難しいことですね。

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