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マンガレビュー『W3』手塚治虫(1965~1966)手塚治虫の隠れた名作


手塚治虫の隠れた名作

私がはじめて手塚治虫の
マンガを読んだのは、
中学生の頃でした。

当時は、昔のマンガが
手ごろなサイズの文庫本で
復刻されており、

そういうものを好んで
よく買っていました。

中でも私がハマって読んだのは、
『鉄腕アトム』ですね。

『鉄腕アトム』は、
もっと小さい頃から
読んでみたかったので、

こんな文庫版が読めるのは、
とても嬉しかったんです。

他にも手塚治虫の作品は
多くのものが文庫化されており、
読みたい作品が
いっぱいあったのですが、

当時はこづかいで買える
範囲も限られており、
欲しいものが
全部買えるわけもなく、

そのまま年月が過ぎていきました。

そんな中でも、
昔から読みたいと思っていた
作品の一つが、

この『W3』です。
(「ワンダースリー」と読む)

中学時代に読んだ手塚治虫の
ムック本で本作のことを知って以来、

たびたび思い出していた
作品なんですが、

実際に読むまでこんなに年数が
経ってしまいました(^^;
(もう41歳)

地球人は本当に野蛮か?

なぜ、私が『W3』に
惹きつけられたかと言うと、
キャラクターたちが
とても魅力的だったからです。

主人公と思わしき少年と、
その周りに配された
ウサギ、ウマ、カモの
キャラクターたち、

きっと彼らが力を合わせて
世界の平和を守るような
ストーリーなんだろうなぁ
と私の想像は膨らむばかりでした。

ところが実際に読んでみると、
そのストーリーは、
少し違いました。

いい意味で期待を裏切られたのです。

先ほど挙げた三匹の動物たちは、
宇宙からやってきた「W3」
という銀河パトロールでした。

地球に潜入するにあたり、
宇宙人の姿のままではまずいので、
三人は動物へと姿を変えたのです。

彼らの目的は、地球を調査し、
「野蛮」と噂される
地球人の是非を問うことです。

その調査期間は1年間で、
W3が送った調査結果にもとづき、
銀河連盟が決断を下します。

地球人が噂通りの野蛮人ならば、
反陽子爆弾によって、
地球は破壊されてしまいます。

一方の地球では、
世界平和を目指す秘密機関の
「フェニックス」がありました。

主人公の少年・星真一の兄、
星光一は、フェニックスの一員として、
工作活動をしています。

この二つの物語が
どのような接点を持って
つながっていくのかが、
本作の見どころの一つです。

大人も楽しめる
本格スパイ&SF作品

本書2巻(秋田文庫版)の
巻末にある馬場のぼるによる
解説によると、

『W3』は手塚治虫が
劇画を意識した青年向けの
作品を発表する前に描いた
純然たる少年マンガだそうです。

当初、本作を連載をしていたのは、
『週刊少年マガジン』ですが、
いろいろ揉め事があって、

『週刊少年サンデー』で
仕切り直された経緯があります。

たしかに少年マンガでは
あるのですが、
それほど単純なストーリーではなく、

宇宙や世界を巻き込んだ
壮大な物語が展開されます。

主人公の兄、星光一を
メインに据えた
フェニックスの工作活動は、

本格派のスパイ映画のようで、
サスペンス的な内容になっています。

この辺りは、大人が読んでも
楽しめる内容です。

とはいえ、手塚治虫らしい、
ユーモアも印象的な作品で、
読んでいると、誰もが童心を
思い出さずにはいられないでしょう。

さらに、本作は SF 作品でもあるので、
科学的な考証も
非常に魅力的です。

ラストのオチにも SF 的な
仕掛けが存分に活かされており、
「こうくるか!」と
唸ってしまいました。

果たして、
地球はどうなってしまうのでしょうか。

W3 が最後にくだす決断には、
誰もが地球人として、
考えさせられるところがあるでしょう。


【作品情報】
初出:『週刊少年サンデー』
   1965~1966年
著者:手塚治虫
出版社:小学館
巻数:全2巻
  (秋田漫画文庫版、
   手塚治虫漫画全集:全3巻)

【作者について】
1928~1989。大阪府生まれ。
'46年、『マアチャンの日記帳』でデビュー。
戦後の日本におけるストーリーマンガの
第一人者とされる。
代表作『ジャングル大帝』('50~'54)
『鉄腕アトム』('52~'68)
『ブラック・ジャック』('73~'83)

【映像化作品】


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