カープダイアリー第8404話「短期決戦、赤い心で日本一に挑むⅡ(2023年10月13日)

マツダスタジアム午前10時。グラウンドレベルから見上げる秋の空はますます高く、筋雲の合間を航空機がゆっくりと西の方へ移動していく。風はなく、肌にはまだ相当強く感じられる陽射しが振り注ぐ。

投手も野手も徐々にそれぞれの場所でアップを初めて30分後には全体練習開始。そして午前11時ジャストになるのを待ってフリー打撃がスタートした。もちろんあすの本番の練習メニューに合わせてのことだ。

2人ひと組で2カ所の鳥かごに入る。一番手は曾澤と秋山、田中広輔と松山のペアだった。

田中広輔と松山はCS初戦でベンチスタ―トになるだろう。もちろん松山は早いタイミングも含めて代打の切り札。ロースコアの1点勝負が予想されるから、とにかく打点が求められる。今季はずっと逆方向へのミートバッティングを重点的に行ってきた。それはこの日もいっしょ。相手が右でも左でも、どんなタイプであっても「一度対戦した相手なら(軌道が分かるから)打てる自信はある」と分厚い胸を張る。

秋山は調子が上がってこないままだが、おそらく「四番堂林」を挟む相方になるだろう。得点圏打率はチーム内2位(規程到達者)の・316。さほどいい打球は飛ばなかったが首脳陣の信頼は厚い。

練習と並行してスタジアム内球団事務所ではスカウト会議が開かれ、ドラフト1位指名候補として青山学院大学の常廣羽也斗投手が指名されることが発表された。12球団トップを切ってのスピード公表。白武スカウト部長は「先発でも抑えでもどちらでも行ける。まだ伸びしろを感じる。いろんな面で今年ナンバーワン…」と高い評価を口にした。

常廣は180センチ、73キロ。右投右打。大分県大分市出身。大分舞鶴高では最速142キロ。青学大では2年春から公式戦登板。今春は3勝0敗、防御率1・44。6月の大学選手権決勝で明大を7安打完封して優勝に貢献、最高殊勲選手賞と最優秀投手賞を受賞した。

MAX155キロの直球にフォーク、ナックルカーブを織り交ぜ、制球力にも定評がある。即戦力度はナンバー1と言われており、他球団との競合は必至の状況だ。

アマチュア取材に長け、その投球についても現場取材してきた関係者は今回のカープ球団の判断についてこう説明する。

「ラグビー強豪校としても知られる学力優秀な大分舞鶴出身。現時点では180センチ73キロとやや細身ですが、高校時代にどれだけ鍛えてきたか、逆に言えばまだまだ伸びるのか?ひとことで言えばよくまとまった投手。カープは大瀬良もいっぱい、いっぱいの状況だし、今の先発陣を見渡した場合すぐにでももう一枚右腕が欲しいはず。来季からすぐにでも一軍で先発として計算できると考えているのだと思います。そういう条件に一番合っているかなと…」

この日のマツダスタジアムは話題満載で、続いて会見ルールに新井監督とDeNA三浦監督が3ショットでカメラの前に立った。ふたりの真ん中にはリモートで監督会見に参加した阪神岡田監督…

モニター画面の岡田監督は左右両監督の顔に“先制パンチ”をかますポースでメディアにサービスカットを提供した。「さすがは関西人のノリ…」と番記者からも、SNS上でも感嘆の声?が上がったのは言うまでもない…

一方、新井監督もそのキャラを存分に発揮。同席したDeNA今永を様々な言葉で褒めちぎり、絶妙の距離感で三浦監督と手強い左腕を“牽制”した。

一発勝負だからこその独特の空気感とはかなり異質の3ショット会見は、逆に3者三様ながらも自然体でCSを迎える指揮官たちの心情を映し出しているようでもあった。

チームの特徴は異なっていても1球のミスやワンプレー、先越えが大きく勝敗を左右することになるであろう、と多くの関係者が予想している。

ギラギラしたものを見せようとはしない3監督の胸の内にはきっと厳しい戦いに向けての闘争心の塊が仕舞ってあるのだろう。

先日、NHKが「プロ野球マジックの継承者たちⅡ WBC栗山メモ采配の裏舞台」の再縫合を流していた。NHKのこのタイミングでのオンエアはCS前を意図したものかもしれない。

番組の中で栗山英樹監督は最後の方で「夢のエンディングはイメージ通り、最高のものとなった」と語っている。WBC監督に就任した瞬間から、野球国米国を決勝で倒す、という明確な目標を持ち、同時にそのことが「子供たちに夢を与える」と自身に言い聞かせて過酷で繊細な準備期間を送ってきた。ダルビッシュ有の協力を取り付け、その知識と人柄を若い投手陣の核に据え、大谷翔平の二刀流を戦力の中心に据え、決勝まで登り詰めた。

その過程で相手の自軍の双方の戦力を見極めながら何度も瞬時の判断で栗山流采配を揮い、危機をクリアした。中西太氏の仲介により手にした“三原マジック”の奥儀が連綿と記されたメモの中に残された「野球というゲームで勝負を争うにはあくまで理詰めでなければならない」という言葉を一番大事にして勝ち続けた。

「マジックとは正しいと思うことをやり尽くした結果、野球の神様も手伝ってくれる。やってる方は奇跡じゃなくて、あぁやって良かったなあという思いだと僕は思います」とも栗山氏は話していた。

新井、三浦、岡田の3監督も万全の準備を整え、それぞれのイメージでCSの舞台に立つことになる。

この日、午後7時30分からNHK広島放送局では「みんなのカープ県民大会議 クライマックスシリーズ&ドラフト直前SP!」のスタジオ生放送があり、ファンとともにゲストの大野豊氏、小早川毅彦氏らとともに参加したファンや視聴者がCSに向けて熱いトークを交わし、カープの勝利を熱望した。

その中で「新井監督の最も優れているところは?」という問いにファンが回答するコーナーがあり、4項目中で42パーセントの指示を集めたのは「コミュ力」だった。

選手のコンディションやその時々の思いを直接聞き、藤井ヘッドらコーチ陣との連携でスタメンや投手起用法を定めて、試合が始まれば「決して後手に回ることのないベンチワーク」を目指すのが新井流。

その「コミュ力」が満員のマツダスタジアムの声援を通常の何倍にも大きくする。

会見で言った「挑戦者のマインド」は新井監督が最近、よくネタにする末包アリスの“獣のように、挑戦者は…”の歌詞ときっと重なっているのだろう。

赤、青両コーナーから繰り出される攻撃力、それをかわす、あるいはパンチを受け止める固いガードや、隙を見て繰り出される必殺カウンター…あす戦いのゴングが鳴る…

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