カープダイアリー第8494話「カープ合同自主トレ始まる、25年前にルーキーだった新井監督と巨人・二岡ヘッドを結ぶ糸、三次プロ野球伝続編」(2024年1月15日)

「青山学院大学よりまいりました、常廣羽也斗です。ピッチャーです。よろしくお願いします」
 
合同自主トレ恒例の新人あいさつで、常廣羽也斗の声が大野屋内練習場に響いた。思い思いのトレーニングウェア姿で、その様子を見守る先輩たちから拍手が起こる。
 
どちらかと言えば地味なウェア、そして名前と背番号が入った赤ゼッケン着用のルーキーたちはやはり初々しい。自主トレ参加者は県外トレ組を除く24選手。まずは先輩たちの顔と名前を一致させなければいけない。張り詰めた時間の中に時折、笑顔も混じる。
 
圧倒される場面もあった。「アップの時に九里さんの列に入ったんですけど、やっぱりオーラからして、歩いている姿で、あ!この人九里さんだってすぐわかったんで…」(高太一)
 
確かにそうだ。一般人とはぜんぜん雰囲気が違うし、プロ野球選手が大勢いる中でもまず九里のようなタイプには目がいく。逆にそういう存在でないとこの世界を極めていくことはできない。

昨年10月に右肘滑膜切除術を受けた大瀬良や、あいさつを済ませてまた沖縄にUターンした新選手会長の堂林の姿は、新人たちの目にどう映ったのだろうか。
 
2日前に新人自主トレを視察した新井監督は「今の新人の選手たちって、顔つきもしっかりしていますし、体つきもしっかりしていますし、私たちが新人のころとは全然、雰囲気が違うなと思いますね」とコメントした。 
 
新井監督の最大の“特徴”は思っていること、考えていたことと話す内容に齟齬が生じないことだ。新入団会見の席上でもルーキーたちのことを持ち上げていたが、でもそれは本心から出た言葉だ。

コーチ経験なしの監督業1年目で安定した戦いができたのもそのおかげだろう。自分を無理に作ろうとしても、どこかで“地”が出てしまうのはよくある話でトップの言動にブレが生じれば、チームは迷走を始める。過去の“政権”を見返すと、そういう事例は枚挙にいとまがない。

そんな新井監督にもプロ1年生だった時がある。それは遥か昔の話のようでもあり、つい最近のことだったようでもあり…

1999年、今からちょうど25年前の1月、場所は同じ大野屋内練習場。達川カープ1年目のこの年の主力メンバーには、緒方孝市、野村謙二郎、前田智徳、江藤智、金本知憲らそうそうたる顔ぶれが揃っていた。投手陣は佐々岡真司、高橋建、小林幹英、山内泰幸、そして黒田博樹…

ドラフト6位指名の新井監督とともに新人あいさつをしたのは、ドラフト1位の東出輝裕(現二軍内野守備走塁コーチ)以下、井生崇光(現球団本部球団部一軍管理課長)、矢野修平、森笠繁(現ソフトバンク四軍打撃コーチ)、小山田保裕(現DeNA球団職員)、酒井大輔、広池浩司(現西武球団本部副本部長)という面々だった。

この8人の中で“出世頭”は?と言えば新井監督ではないだろう。今や西武球団の常勝軍団作りを一手に引き受ける広池浩司さんのほうが立場的には上である。

立大卒業後に全日空に入社して、羽田空港で働きそこからプロテストを受け、さらにドミニカ野球アカデミー練習生も経てカープのユニホームに袖を通した広池浩司さん。一方の新井監督は、プロの舞台に立ちたい一心で、駒大先輩の野村謙二郎さんの自宅(広島市南区)をある時“直撃”。広島で買った土産を手渡すと大先輩は苦笑したが、そんなことを気にする余裕もなく、豪快なスイング披露でアピールしたのだった。

それから四半世紀。井生崇光さんもまた、広池浩司さんのように球団中枢を担うポジションでの存在感を高めつつある。

1999年1月の時点で、それぞれどんな未来を見つめていたのか。きっと未来のことは誰にも分からない。

1998年ドラフト組と同じように2023年ドラフト組もメンバーは8人。地元各局はこの日の夕方ローカルニュースでその模様を伝えたが「声」が紹介されたのは指名上位の常廣羽也斗や高太一だけだった。

それは25年前も一緒。要するに当時、新井監督はテレビ、新聞からもほとんどノーマークという立場にあり、カメラマンやテレビクルーは1位指名の東出二軍コーチに集中した。しかもその勢いは例年以上だった。

なぜか?

1998年ドラフトを前に、カープ球団は二岡智宏(現巨人ヘッド兼打撃チーフコーチ)を徹底マークしていた。当時の「希望入団枠」(選手側の希望で指名球団を決めることができる)を使い、三次市出身で広陵高から近大に進み7季連続でベストナインに選ばれた逸材を獲得して、野村謙二郎さん(当時プロ10年目)の後釜に据えるつもりでいた。

ところが事態は秋口辺りになって急転する。結果、二岡智宏は巨人軍のユニホームに袖を通すことになったのである。

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