カープダイアリー第8318話「横浜スタジアム九回、山崎康晃から劇弾再び…も予言解説通り打つ坂倉の凄み」(2023年7月15日)

勝負は一振りで決まる…

午後5時開始の横浜スタジアムはゲーム前気温が30度近くもあったが、四回まで両軍先発がパーフェクトピッチング、という入りになった。

カープ打線は、前回登板でセ・リーグ記録にあと1と迫る15奪三振を記録した今永を打てずに八回まで来た。

DeNA打線は、五回も三者凡退。六回、京田と戸柱の七、八番にやっと連打が出て、今永の初球スクイズで1点。

2位DeNAは首位を行く岡田阪神までこの時点で2差、追いかけくる新井カープとは1差。両軍ベンチも、3万3239人のスタンドも、この一戦にかかる重みを十分に感じながら今永の投じた124球を見届け、そして九回を迎えた。

DeNAは山崎康晃。先頭の「四番・菊池」は2球目に手を出してショートゴロに倒れた。

打席には坂倉。横浜スタジアム×山崎康晃は追い風だった。2021年4月3日の横浜では京山からプロ初の満塁弾、5月2日の九回には山崎康晃からグランドスラム…

第1球がボールになったあと、DAZNの解説者としても活躍中の横浜OB・佐伯貴弘さんが大事なことを言いかけた。

「さあ、坂倉選手も今のキャッチャーの捕り方が見えたと思うので…」

2投目が迫っているから実況アナはしっかりそれに応える時間なし。スタンドからは「さ・か・くら」コール…。渇いた打球音とともに舞いがった白球はカープファンの待つレフトスタンド最前列に飛び込んだ。

「あぁ、やっぱり…」(佐伯貴弘さん)

その瞬間、7回1失点で降板した大瀬良はベンチ前で、アイシングした右肘を伸ばし両拳を突き上げた。首脳陣は朝山、石原、新井、藤井の順で左手を挙げて坂倉を出迎えてタッチした。新井監督は右手でそのヘルメットも2度叩いた。

実況アナが、そのタイミングで話を振った。

「佐伯さん、打つ前にちょっと、おっしゃってましたね」

その解説は同点ソロの凄みを的確に視聴者へ伝えるものだった。

「はい、あのですねぇ、なぜそういう話をしたかと言うと、(初球は)インコースにズバッと来ましたね、映像上は。ただ(戸柱捕手が)構えていたところは外なんで…」

「逆球」(実況アナ)

「坂倉選手がぱっと見逃した時、キャッチャーが捕る仕草が見えたと思うんです、見逃し方で。バットを(体正面でそのまま)上に挙げて見逃したんで、じゃあ、ここはインコースはないなっていう…。たぶん見えると思うんですよ。ですから今、完全にアウトコース1点張りで踏み込んでいきましたよね。それで、ちょっと“やっぱり”って言ってしまったんで、そこはベイスターズファンには申し訳ないんですけども…。ですから結果論ですけどもあすこでボールにするか、ボールになるツーシームを投げるかというところを挟んでほしかったんですね」

そう、本当に大事な試合は一振りで形勢が傾く。

続くマットもレフト線左前打して代走大盛。DeNAベンチはエスコバーにスイッチしたが小園の遊ゴロが内野安打になり、末包も途中で申告敬遠。一死満塁で新井監督の勝負手「代打曾澤」は初球で勝ち越し犠飛となった。

「坂倉が劇的なホームランを打ってくれて、ここで打たなかったら男じゃないという気持ちでいきました」(曾澤)

難敵・今永を攻略できずとも最後に飛車角と持ち駒で逆転。“新井名人”の称号がそろそろもらえそうな勢いだ。なんせ2日前の東京ドームでも1対1の延長十一回、坂倉の勝ち越し打率などで5点を奪ったばかり。

阪神でチームメイトだった藤井ヘッドと、外から野球を見る仕事をしていた石原慶幸コーチをスタッフとして迎え、それに伴って「坂倉は捕手1本」の方針を貫いてきた。入団当初から捕手として成長を目指し、打つ方では「20発、3割」を目標としてきた坂倉の思いを実現させるための申し分のない環境…

横浜で18シーズン、最後に中日で1シーズンを送った佐伯貴弘さんは通算1597安打、156本塁打。横浜マシンガン打線の一翼を担い打撃タイトルこそないものの、2004年流行語大賞にもノミネートされた「赤ゴジラ」嶋重宣(現西武一軍打撃コーチ)との首位打者争いを8月9月に演じたことでも知られている。

深み、思いやり、愛情に溢れた佐伯解説はネット全盛時代の多士済々のキャラクターの中でもプロ野球ファンから高い支持を集めている。

その眼力が予見した劇的な同点弾ではあるが、その読み通りに柵越えする坂倉もまた見事。どれだけの数字を今後、そのバットで積み重ねていけるか。佐伯貴弘さんの通算打撃記録を追い越すのはいつ頃になるだろうか…


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