カープダイアリー第8326話「夏休みのマツダスタジアム、持ち駒の使い手新井名人は一番小園、代打松山からショート矢野、そして九回栗林」(2023年7月23日)

広島市内の公立小・中学校では2日前から“楽しい夏休み”に入った。日曜日のマツダスタジアムには子供たちが大勢やってきた。旧広島市民球場時代、夏休みのスタンドにはひと際体の大きい小学生の姿があった。「お父さんとマラソンで」カープの応援にやってきた新井少年の話、だ。

少年はやがて地元の広島工から駒大へ進み、ドラフト6位でカープへ。悪戦苦闘の末、四番に成長したにもかかわらず、FA移籍で一度は広島に別れを告げ、縁あってまた生まれ故郷に戻るとリーグ3連覇を成し遂げた。

新井監督。まだその呼び名が定着していなかった年明け1月半ば、新監督は和歌山県の高野山で護摩行に臨み、リーグ優勝と日本一を祈願した。現役時代の19年前から毎年続く恒例行事。大きな声で「広島優勝、心願成就」と繰り返した。
 
新井監督は節目、節目で選手たちに「優勝」という目標について明確に提示してきた。そしてまた今回も、後半戦初日の前日22日、「優勝しか目指していないから」と訓示した。

後半戦オープニング投手となった森下は期待に応えて8回自責2で試合を作り白星リスタートに貢献した。

迎えたこの日、スタンドの子供たちが憧れの目で見つめるプレーボールのマウンドには大瀬良。ところがその立ち上がりは、噎せ返るような暑さのスタジアムと同じように息苦しいものになった。

大瀬良は今季、すでに中日と3度対戦して自身3敗、対戦防御率も4・08。前回7月8日のバンテリンドームナゴヤでは五回までゼロを並べて六回、先頭の岡林を歩かせ続く大島には二塁打を許してそこから1対2と逆転された。

相性とは気になるものだ。先頭の大島にはファウル4度で粘られ10球目でセンター前に弾き返された。さらに岡林にも3連続ファウルのあと8球目で歩かせた。

その瞬間、前日から新井監督の隣に座る菊地原投手コーチの表情がこれ以上ないほど厳しいものになった。新井監督が表情を変えないからその姿はよけい目立つ…

無死一、二塁から何とかクリーンアップを抑えたものの初回だけて31球。菊地原投手コーチが一番胸を撫で下ろしたのではないか…

ところで子供のころからプロ野球に親しみ、そしてプロの世界に身を置き2000本安打を記録し優勝も経験して未経験は「日本一」だけ、という新井監督の野球観とはどういうものなのだろうか?

その答えは簡単には見つかりそうもない。ただ采配を揮い始めて90試合近くが経過して分かったことがある。それは投手も野手も逆境を跳ね返すだけの力を持ち始めているということ。調子がいい時はそれでいい。下降気味になった時、形が崩れた時にどう対処するか?一軍を外され、再調整を経てまたマツダスタジアムに戻ってきた時にどう振舞うことができるか。

そう「赤の魂」をどれだけ各人が宿すことができているか…

スタンドから歓声が上がり、1点を追う初回の攻撃は開幕戦以来の一番に舞い戻った小園のセンター前ヒットから始まった。一死から新井監督の考えで三番に固定されている秋山が左中間に先制の適時二塁打。大瀬良同様、今季開幕から乗り切れていない中日先発の柳に効果抜群の先制パンチを食らわせた。

その後は両軍ゼロ行進。大瀬良は上本・小園の二遊間やサード田中広輔の好守に救われながら少ない球数で踏ん張った。

迎えた六回の攻撃は秋山から。低目に落ちるボール球をきっちりセンター前に打ち返すと2日連続で四番に入った上本が初球で一塁線バントを決めた。

中日にとっては一番嫌な形になった。それが柳の球筋に如実に表れた。坂倉、田中広輔は粘って連続四球。満塁となってマットの代打に松山。犠牲フライで2対0となった。

新井監督がどれだけ藤井聡太名人について詳しいか?は知る由もないが手駒の使い方はすでに名人級と言っていい。

七回、大瀬良が中日移籍後初打席となった代打川越にタイムリーを浴びて1点差に詰め寄られると、八回の攻撃では松山のあとショートの守備に入っていた矢野が左腕の上田から中前適時打を放った。坂倉、田中広輔から左打者の2連打。滅多に打席に立たない矢野もまた“逆境”に強い。

2点リードで迎えた九回のマウンドには大歓声を浴びて栗林が上がり、4月22日以来のセーブを挙げた。二番手で八回を投げた島内の球数わずかに11、栗林も9。投げて守って打って、後半戦もJリーグ顔負けの1点の重みにこだわる戦いが続いてチームは3季ぶりとなる7連勝、となったのである。

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