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フリーク、武道館やるってよ

「推しが武道館いってくれたら死ぬ」というアニメがありましたが、見たことはありません。

地下アイドル業界では大手とされる事務所FreeK-Laboratory(以下フリーク)が、年明けに武道館公演を控えているので今回はその話です。

フリーク武道館公演に対する批判

フリークが武道館公演を発表した直後、SNS上では好意的な意見もある一方、「フリークのレベルで武道館に立っていいのか」、「対バンで武道館は実績とは言えない」など、批判的な意見も散見されました。

来年1月4日におこなわれるアナフェス武道館では、同日に同事務所所属のネコプラ・STAiNYのワンマン、また3月にはchuLaの武道館ワンマンもあります。

コロナ禍のフリークはZeppを普段使いしてたし、豊洲PITやTDCもやってしまったので、それ以上大きい箱を目指すとなると、都内では日本武道館になります。武道館は由緒ある場所ですし、簡単に借りることはできません。武道館は公共施設であり、反社は借りられないため、これによりフリークは反社ではないことが証明されたわけです。よかった。

普段は数百人規模の集客で、一部のアイドルファンにしか知られていない地下アイドルの事務所が、単独で武道館を借りるのは、自分が知る限り聞いたことがありません。本当に客は集まるのか、蓋を開けてみたらガラガラなんじゃないかとかいろいろ言われてますが、武道館でライブを開催するということだけでも、すごいことなんじゃないかと思います。

相変わらず評判の悪いフリーク

とはいえ、相変わらずフリークの評判は良くありません。フリークほど悪評がついてまわる地下事務所ってほかにないです。なまじ知名度も高い。

逆に、フリークほどオタクから評判の悪い事務所なんてないのに、ほとんどの地下運営はフリークより集客できません。そこのギャップに集客の課題が隠れているはずですが、ほとんどの運営は集客できない理由をメンバーやステージに求めます。違うんだよ。フリークのオペレーションを見習え。

考えてみてください。大変失礼ですが、フリークのアイドルが他のグループに比べて抜群に可愛いとか、パフォーマンスがすごいということはなく、Xのフォロワーは数千くらいがボリュームゾーンだし、インフルエンサーと言える子も少ない。だけど、タイムラインでは定期的に話題になってるように見える。この"話題になってるように見える"ってところが重要なのです。

オタクからすれば、アイドルが本当に頑張ってるかどうかは、そんなに重要ではありません。そもそも努力は見えない部分もあります。アイドルという職業自体、どう思われるか、どう見えるか、イメージ・認識が全ての世界です。

たとえばゼロイチファミリアというタレント事務所がありますが、彼女らのなりふり構わなさを見てください。肌の露出といえばゼロイチ。そのイメージを刷り込むのに十分な量の水着画像やセクシー衣装の画像を、事務所総出で毎日SNSに投稿しています。

現代は情報戦です。一人でSNSを頑張っても限界があります。タイムラインの面積を占有した者から認知が得られます。そういう意味では、フリーク所属のメンバーの数は多いので有利に働きます。

フリークのアイドルというだけでマイナス評判からのスタートです。一見最悪なスタートですが、実は真面目にやってるだけでなぜか印象が良くなる。普段は素行の悪いヤンキーが、おばあさんに席を譲っただけで印象が良くなるのと同じ現象がおきます。

オタクはフリークブランドのネガティブな部分ばかりとりあげますが、実はポジティブにも働いてるということに気づくべきです。

悪いイメージを払拭するために頑張るフリーク

悪いイメージを克服するために、事務所も手をこまねいているわけではありません。

株式会社SCOTの立ち上げ

フリークに通ってる人には周知の事実ですが、現在、合同会社フリークは箱としては存在しているものの、マネジメント機能やイベント制作機能のほとんどを、昨年立ち上げた新会社SCOTに移管しています。

ただ会社が変わったといっても中身が変わったわけではありません。当時社長だった小口氏が、高額違約金問題で週刊文春からインタビューを受けて、記事が公開されたのが2022年6月ですが、その2ヶ月後にSCOTを設立しています。

イメージが大事なアイドル事務所。「フリーク」で検索したら文春の記事が出てくるのはイメージが良くないですし、採用にも影響します。娘を預ける親御さんも心配でしょう。フリークからSCOTへの移管は、そこを回避するための策なのではないかと思ってます。

ただ、ジャニーズがSMILE-UPと呼ばれないように、フリークもSCOTとは呼ばれません。悲しい。

海外支部の立ち上げ

フリークはコロナ前からアジアを中心に海外でライブをしていましたが、今年ようやくインドネシアやタイなどに支部を立ち上げ本格始動しました。コロナ明けの去年11月から数えても、すでに3回海外でライブをおこなってます。

海外のアイドルフェスに呼ばれて、日本から出向くグループはいますが、海外に支部を立ち上げてまでアイドルビジネスにトライする事務所は、メジャーを含めてもかなり少ないと思います。

最近は、アジアのアイドル現場が盛り上がっている様子が、よくXで流れてくるので、海外で日本の地下アイドルビジネスをぶん回すとどうなるか楽しみです。

余談ですが、10年くらい前の日本の地下現場は、今のアジア現場くらいの熱気がありました。しかし、コロナの影響もあったのか、過去の熱気が完全に戻ったかというとやや疑問です。日本は今後経済が上向きに回復する可能性は低いですし、豊かになりすぎた結果、個人の趣味嗜好が細分化してしまい、アイドルに限って言っても部分的に盛り上がることはあっても、昔のような一体感、熱を帯びたアイドル現場があちらこちらで見られる状態にはならないような気がしています。そう考えると、これから経済が成長するアジアでアイドルビジネスを展開するのも、日本のアイドル文化を醸成させる一つの方法かなと思います。

悲願の武道館公演

おそらくほとんどのアイドルが武道館を目指していますが、99%のグループは武道館どころかZeppにすらたどり着けず解散します。たとえある程度売れたとしても、そもそも自社で武道館を借りようとすら思いません。多くの人が自社グループの「身の丈」や「コスト」について考えてしまうからです。

しかしフリークは違います。元がイベント制作会社なので、まず箱を押さえるのが基本です。箱を抑えなければ開催すらできません。武道館は、おそらく遅くても1年以上前に予約してないと無理でしょう。

このまま何事もなければ1月と3月に武道館ライブが開催されます。

武道館はよくてトントン、おそらく赤字だと思います。しかしいざ開催してしまえば、フリークのアイドルは晴れて「武道館アイドル」になります。メディアで紹介されるときも必ず「武道館」というワードが使われるでしょう。

世の中の大半の人はアイドルの良し悪しについてわからないので、「武道館」というワードを聞いただけで、「知らないけどそれなりにファンがいるグループなんだろう」と勘違いします。普段は100人もお客さんがいないにも関わらずです。

武道館公演がうまくいくかは正直わかりません。失敗に終わる可能性もあります。しかし、アイドルに対してまともな給料すら払うのを渋る地下アイドル運営が多い中、これは巨額の投資と言えるでしょう。

フリークは社名を変え、武道館公演やることで、信用の回復を目指しているように見えます。武道館でライブできる事務所なら、ちゃんとしてそう、私も出たいと思う子が応募してきますからね。今在籍している娘たちのモチベーションアップもありますが、どちらかというと今後への投資の意味合いもあるわけです。

フリークはなぜ事務所としての評判が悪いのか

現在フリークに通ってる人たちからすると、各イベントの満足度は決して低くはないと思いますが、なぜ外部からの評価がこんなにも悪いのかというと、おそらくフリークに通ってない人たちは、フリークを純粋なタレント事務所だと思ってるんじゃないかというのが自分の仮説です。

フリークはコンテンツ制作やイベント制作からスタートしている会社であり、当初はタレント育成のノウハウはそんなに持っておらず、事業しながら、徐々にインストールしていったはずです。フリークが現在の規模に成長した一番のポイントは、ある程度のレベルのタレントを育成しなくても、アイドルならほぼ未経験でもビジネス回せるんじゃね?って気づいたところだと思います。

やはりほとんどの事務所がタレントをじっくり育てて、売り出しのコンセプト考えて…と時間と手間をかけますから。で、育てたあとにタレントをどうやって広めるかを考えるんですが、フリークの場合はイベントの仕組み自体が先にあり、「じゃあここに出す人材をどうやって調達するか」という流れでできているので、普通の事務所と成り立ちの順序が逆なのですね。たぶん。

だから従来の芸能事務所あがりのアイドルと比べると、マネジメントがしっかりしてないようにも見えるわけですが、もしかしたらフリークという組織の成り立ちのせいでそう見えるのもかもしれませんね。

評判に反して規模を拡大しているフリーク

個人的には、フリークはアイドルにとってもそこまでダメな事務所だとも思いません。裁判沙汰や週刊誌の件でイメージは悪いですが、雰囲気で決めつけるのではなく、ファクトを見るべきです。

一つは、フリークは規模を拡大し続けている点です。ここ2年でグループを7つも増やしています。結成1ヶ月で半分近くのメンバーがやめたり、結成半年で解散してしまうグループもいるなか、辞めるペースより早く、人材を確保できています。

普通に考えれば、これだけネット上での評判が悪い事務所なのだから採用も難しそうなものですが、人は採用できている。グループを作るにあたって、最初にネックになるのが、採用、人材の確保です。辞める人も多い業界なので、定常的に人を確保できる仕組みがない限り、グループは存続しませんし、事務所も拡大できません。

なぜフリークが継続的に採用できているのか考えてみたのですが、一つは妥当な金額の給与が支払われてるからではないかと思います。さきほど述べた半年で解散してしまうグループなどは、給与が支払われない、遅れるなど多かれ少なかれ金の問題が絡んでいると思っています。グループ運営がうまくいかない原因の半分は金銭トラブルで、もう半分は運営によるセクハラ、パワハラ、人間関係です。

ファンは事務所の評判を気にしますが、事務所で働くアイドルからしてみれば、事務所の評判だなんだいっても、先立つものは金です。つまり自分が納得できる妥当な金額のお給料はもらえている。給料が少なくてバイトしている子は、ファンが少ない。とはいえ、それは自分の活動の結果だから納得できるし、その上でライブの数は多すぎるくらいあり、たまにZeppや大型フェスにも出れる。意識の高くない普通の子は妥当な金額の給与がもらえて、適度に承認欲求が満たされれば、普通に働きます。

本当にダメな会社というのはびっくりするくらいの勢いで人が辞めていきますが、むしろ人が増えているということは、それなりに会社として順調に回っているとも言えます。

地下アイドルが武道館公演をやる意義

アイドルや運営のやり方に口をだしたがるオタクは多いですが、エンタメビジネスで「こうやったら売れる」というのは絶対にわかりません。普通のビジネスでも難しいのに、エンタメとなれば変数が多すぎて次に何が流行るとか、こうしたらうまくいくとか分かるはずもありません。かわいくて歌上手くてダンスもできて、ファン対応も神で…みたいな子を5人集めたら、3年で武道館いけるかというと、そういうわけでもないですし。(と、これを書いてるときにフルーツジッパーが2年で武道館を決めてしまったのでいけますw)

そんななか、フリークのようなアイドル事務所がわざわざ武道館公演をやる意義はなんでしょうか。今の時代、武道館クラスのアーティストを目指さなくても、それなりの規模になればメンバーも満足しながらアイドル活動を継続することは可能です。

ファン目線では、アイドルはパフォーマンスを通じて感動を届けることが求められますが、一方でそこで働くアイドルの目線は忘れられがちです。

才能がある人だけがステージに立てる世界というのは、それはそれで立派だしあるべき世界だと思いますが、ある種残酷な世界でもあります。見方によっては、才能がない人でもステージに立てる世界の方が優しいと言えるのではないでしょうか。

これはマネーの拳という漫画で、主人公の社長が会社の株式を公開する際に、担当証券マンに「会社とは何か」と聞かれたときの一コマなんですが、会社にはサービスを提供する以外にも、雇用を創出するという役割があります。

地下アイドルはややもすると、やりがい搾取とも言われる職業ですが、個人が自分のやりたい仕事に就ける世界というのも、一方で価値があります。誰だってブルシットジョブにはつきたくないでしょう。

アイドル事務所は客に感動を提供して対価をいただきつつも、何者でもない子たちが一時的でも夢を見れる場所を提供しています。このこと自体は悪いことだとは思いません。むしろ求められているからこそ、これだけアイドル事務所が氾濫しているとも言えます。

フリークは100人規模で採用した上で、アイドルをやりたい子たちに活躍できる場を提供し、武道館まで用意しています。有名アイドルにはなれないかもしれないけど、武道館に立てるって夢があるじゃないですか。売れるかどうかもわからない、100人のうち1人成功すればいい業界で、せめて夢くらいはみたいよなーと思います。

小口氏のFacebookより



そんなフリークの武道館ライブのチケットはこちらから。入場無料の武道館ライブってかなり珍しいのでは。

フリークについては以下のnoteでも詳しく解説しています。


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