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【本の紹介】『水車小屋のネネ(津村記久子著)』

「眠れないから仕方なく本を読む」ことはよくありますが、「読むのをやめられなくて眠れない」のは何年ぶりだったでしょうか。

『水車小屋のネネ』
津村記久子さんの、2023年谷崎潤一郎賞受賞作品です。

かわいらしい題名と装丁で、「もしかすると児童文学?その割には字が多くて分厚いなぁ」と思いながら読み始めました。

第一印象を裏切り、シビアな場面から始まります。
高校を卒業したばかりの18歳の姉(理佐)が、8歳の妹(律)を連れて家を出る場面です。
母親が、理佐の短大への入学金を、新しくできた自分の恋人の事業のために使ってしまったのです。
理佐はひとりで家を出ようとしていましたが、妹の律も母の恋人から虐待を受けていることを知り、連れていくことにしたのでした。

理佐と律は、田舎の蕎麦屋に世話になることになります。
その蕎麦屋では蕎麦粉を水車の力で挽いています。
その水車小屋にいるのが、「ヨウム」のネネです。

ところで私は「ヨウム」という鳥を今回初めて知りました。

『水車小屋のネネ』では、「3歳児程度の知能を持ち、50年ほど生きる」と書いてあるのですが、ウイキペディアではそれどころではなく、「少なくとも5歳児以上の知能を持ち、平均寿命は50歳程度、条件が整えば100年近く生きることができる」と書かれています。
「コミュニケーションとしての会話ができる」ということですよね。

さて、本題に戻ります。

『水車小屋のネネ』は、ヨウムの「ネネ」を軸にお話が展開されます。
「ネネ」はぶれません。常に良心であり、癒しです。

良心であり癒しであるのは「ネネ」だけではありません。
(姉妹の母親とその恋人以外)だれもができる範囲で当たり前に助け合います。「やってあげている」という感じもありません。「仕事」として助けるわけでもありません。

人々の良心に支えられながら姉妹は成長していきます。

第1章では姉18歳・妹8歳
第2章では姉28歳・妹18歳
第3章では姉38歳・妹28歳
第4章では姉48歳・妹38歳
10年ごとの姿が描かれます。

出会いと別れが繰り返され、社会では様々な出来事が起こります。
外国人労働者の不当労働の問題
東北の震災
新型コロナの流行
その都度、読み手は考えさせられます。

物語の終盤、妹(律)の小学校時代の担任だった先生(お金のために姉妹を連れて帰ろうとする母と恋人から2人を守り、その後もずっと見守っている)のことばがあります。

誰かに親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ

38歳になった妹(律)が、先生に、「大勢の生徒の1人にすぎないのに、なぜそんなに親身になって助けてくれるのですか?」と尋ねた時の答えです。

「何のために生きるのか」ということについての、津村さんの思いが伝わってきました。

良い小説でした。


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