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定義を破壊する

執筆:板橋基之

「映画は〇〇」という定義は存在しませんが、
観る人各々、評論家各々には「映画ってこうだよね」という
ふんわりした定義はあるような気がします。

その定義は、時代によって変わって、風潮といいますか、肌感といいますか、漂う空気感といいますか。
とてもふんわりした「映画ってこうだよね」感です。

作り手となる監督自身は、というか、私自身は定義を持っているのか、というと、持っていなくて、というか、意識をしていません。
意識はしていないですが、映画監督というのは、その世間一般のふんわりした定義を、壊すこと、のような気がしています。
そして、定義を壊す映画を作ってしまうと「これは映画じゃない」とか色々批判されることがあります。ですが、映画監督からすると定義を壊す映画に出会うと「すごい映画だよ」って思うことが多いです。私的な言い方をすると「やっちゃってるなぁ」という言葉になります。ゾクゾクしてニヤニヤして羨ましくなってやる気が出てきます。
そしてまた新しい定義ができていくのです。

例えばですが、野球もサッカーなども、昔からやってることは同じなのに進化していますね。
歌や音楽も時代と共に変わっていきます。
どのフィールドも時代と共に定義が更新されて進化していってます。
映画も昔からやり方は変わりません。シナリオ書いて役者がいてカメラで撮影していく。
撮影機材や編集技術の進化もあって、昔とは見栄えがだいぶ違います。映像への驚きがあるとネットで調べたりもしますが、どちらかと言うと私は、撮り方よりも、感情表現に興味があります。
「感情のこんな表現ができるんだ」に心が震えます。
新しい感情表現に関心があるのだと思います。

私の場合、今まで短編映画を5本作ってきましたが、毎回違うニュアンスで作ってます。それには理由がありまして、映画の研究、映画の実験、が目的です。
観客の反応、捉えられ方、一人歩きの仕方、受け入れられる映画の方向性など。この感覚は自分のものだけなので、とても毎回良い情報が採取できます。
また作るだけでは、追いつけないので、映画館でも海外の映画祭のオンライン上映でも、とてもよく見ます。

作っては勉強、観て勉強です。

私は39歳で映画を撮り始めた人間ですし、助監督経験も無ければ、学校でも映画について学んでもいませんので、「若い頃からやってれば、、」という後悔と、得体の知れないプレッシャーがあります。
他の監督さんの映画を観て、落ち込むぐらい感心されっぱなしの連続なので、私の様な才能のない凡人監督は勉強し続けないと生き残れないのです。

さて今回『Bridal, my Song』という映画を監督しました。
会社の創業者をモデルにした物語です。会社の映画、いわばブランデッドムービーという立ち位置になるのかもしれません。
映画監督のお仕事は、依頼されて取り組んだり、自分からやりたいものを企画したり、いろいろな場合があると思います。今回は前者です。

創始者に何度も取材し、時代背景や業界をリサーチして、物語を組み立ていきます。
エピソードを聞いても、それが映画になるのかは、紙一重です。
紙一重な物語だとしても、それをエンターテイメントとして映画として成立させるのが、私たち映画監督の仕事とも言えなくも無い。
時と場合で、そんな時もあるわけです。
どちらにせよ、映画は映画。観客がお金を払って観るレベルにしないといけないわけです。

5月からシナリオを書き始めて11月にクランクイン。
シナリオが着地するまで半年。発見しては書いて、何度も何度も見失って、考えては絞り出して、そういう繰り返しがとても面白いものです。

完成するまでに何度も何度も観て、
この映画で定義を壊せたのかどうか、、。
デビュー作は監督の色が出る、と言われますが、果たして、、。
不安と緊張と期待と楽しみ、が混ざり合って吐きそうです。

まずは『Bridal, my Song』劇場公開。
そしてコツコツと映画研究は続き、また作り続けていくのです。
人類がまだ把握できていない面白い表現が映画の中には存在しているのかもしれませんし、それを探していくのが、とても楽しいのです。
あー!早く次の映画撮りたい!

©2021『Bridal, my Song』製作委員会

『Bridal, my Song』

ウエディングプランナーとしての原点を生み出した第一人者の半生を映画化。昭和55年、平成5年、そして令和2年、3つの時代を舞台に、革新的なアイデアでブライダル業界に新風を巻き起こした今田秀と、彼を支える仲間たちの挑戦の物語。

出演:小出恵介、大水洋介、平岡亮、辻凪子、水沢林太郎、木村知貴、新実芹菜、渡辺大、浅田美代子ほか
監督:板橋基之
音楽監督:ミッキー吉野
配給:AGentfilms
©2021『Bridal, my Song』製作委員会
▶︎公式サイト

9月30日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開 !



執筆者:板橋基之
1976年東京都生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業。日本映画監督協会会員。
フリーのディレクターとして、映画、ドキュメンタリー、広告映像などを企画・演出。
初監督映画『おべんとう』(2016)はモントリオール世界映画祭を始めクレルモンフェラン短編映画祭な数々の映画祭で上映。
2022年9月30日『Bridal, my Song』公開。
他、福島県浪江町の映画シナリオ執筆。絵本『ぼくギザギザ』シリーズ更新中。

【IKURA公式サイト】板橋基之監督ページ