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(三)依頼・紹介編 ①

 前回、『売り込み編』でも書きましたが、リード(導入部)が長いというのが私の欠点なので、今回は寄り道をしないで、早速本題から入ります。
 
 私の経験上、私もそうであったように、デビューの仕方では、『依頼・紹介』という今回の方法が一番安全かつ、確実だと思われます。
 私の場合、一応テレビ局主催のメジャーな新人シナリオコンクール受賞者ですが、フジテレビのヤングシナリオ大賞と違い、他のシナリオコンクール同様、単なるイベントになっていて、フォローはありませんでした。フォローがあれば、一気に超売れっ子シナリオライターに駆け上がって、各テレビ局が奪い合っている視聴率のとれる脚本家20人の中に入っていたでしょう。そう思うと、残念でなりません。要は、時の勢い、運というものでしょう。その時流に上手く乗れないと、一気にブレークするのは難しいと思われます。
 私は、喜劇を書かせてもらえれば、誰にも負けない自信があります。が、残念ながら、喜劇が理解できるプロデューサーは、なかなかいないものです。
 どこかに、ハリウッドにおける製作・監督フランク・キャプラと脚本ロバート・リスキンのコンビのような、プロデューサーはいないものですかね-----。
 ちなみに、フランク・キャプラは、『或る夜の出来事』『オペラハット』『我が家の楽園』の3作で、3度アカデミー監督賞を受賞しています。
 一般社会でも、就職する場合、この紹介というのが、信用という点からも、一番採用される確率が高いでしょう。信用を第一とするこの業界も、同様のようです。
 面倒見のいいプロデューサーであれば、すぐにでもシナリオを書かせてくれる確率も高いというものです。プロデューサーとしても、紹介してくれた人との信頼関係で、企画書だけ書かせて、シナリオは他の人に書かせますということはありません。あっても、1回か2回というところでしょう。
『コンクール編』でも書きました通り、コンクールは、宝くじを買うより当たる確率は高いかもしれませんが、入選まで時間がかかりすぎて、あまりお勧めできません。
『売り込み』も、前編で書きました通り、“センミツ”(千本企画を出して、3本しか通らない)と言われるぐらいの企画の通過率の低さでは、コンクール同様、時間がかかり過ぎます。
 
 私のシナリオの師である直居欽哉氏の逗子の自宅に行ったとき、雑談の流れの中で、プロデューサーを紹介してくれるという話になりました。業界人の中には、「無駄話はやめてくれる」と、雑談を嫌う人がいますが、この雑談というのが、一見無駄話のようで、結構いい流れに導いてくれるものです。
 麻雀をやっている最中に、誰かの発言に触発されて何気なく言った一言が、
「うん、それ面白いね。その話、もっと膨らませたら、映画か連続ドラマにならないかな?」
 という話になって、それがきっかけでヒット作映画や話題の連続ドラマになることがあります。
 渥美清さんの代表作、映画『男はつらいよ』も、ある映画関係者が公衆電話をかけていたら、その隣に車寅次郎と同じ服装、キャラをした男が、「おいちゃん、オレはよう-----」と、泣きながら電話をかけていたそうです。
 それを見た映画関係者は、撮影所に帰って、みんなの前で、
「さっき、電話をかけてたら、隣に面白い男がいたんだ」
 と話し、それがきっかけで、あの国民的映画が誕生したという話を、元松竹の映画プロデューサーに聞いたことがあります。
 雑談の話では、まだまだいくらでも書けるのですが、一つのキーワードから、話が次々と飛ぶのが、一般人としては私の欠点なので、この辺でやめておきます。
 しかし、この連想ゲームのように、一つのキーワードに触発され、次々とアイデアが湧くというのは、作家としては非常にいい傾向で、業界ではこういうのを、引き出しの多い作家と言われます。  
富士山を水源とする柿田川の湧き水のように、アイデアが次々と浮かぶようでなくては、プロとしてやっていけません。
 私の場合、書いていてアイデアに行き詰まるということがありません。逆にアイデアが2つも3つも4つも湧いてきて、どっちの表現にするか迷うのが常です。
 この記事にしても、投稿したあとで読み直すと、ここはこうした方が良かった、ああした方が良かったとアイデアが次々と浮かび、何度か修正して再投稿するのが、いつものパターンです。
 それは、絞(しぼ)り取った雑巾(ぞうきん)を、もう一度、さらにもう一回絞って、アイデアを絞り出すようなものです。
ハリウッドでは、一度出来上がったシナリオを、さらに磨き上げるライターがいます。そういう役目の人を、ポリッシュ(磨く)ライターと言って、映画のラストのクレジットタイトルにも、ちゃんと表記されると聞いたことがあります。
 紙媒体と違い、それが可能なのが、noteの投稿記事のいいところです。
 私のように投稿後も何度も読み直して、その都度アイデアが浮かぶクリエイターにとっては、願ってもない媒体です。
 さて本筋に戻り、当時、なかなかデビューのきっかけが摑めず右往左往していた私が、藁をも摑む思いで、その話に飛びついたのは言うまでもありません。
 その話のあった数日後、直居氏に紹介してもらったプロデューサーに電話をして会う約束をし、後日喜び勇んでそのプロデューサーを訪ねて行きました。
「今度、刑事ドラマをやろうと思っているので、企画書を書いてきてくれる」と、願ってもない申し出でした。
 早速、警視庁に取材に行き、何本か企画書を書きましたが、またしても通りませんでした。というか、よくよく聞くと、ただ刑事物のドラマをやりたいというだけで、具体的に誰が主役で、どこの局のどの枠でやるかということが決まっていないので、それ以上話が進みませんでした。
<なんだ、ひょっとして、アバウトな依頼で、単にオレの腕を試しただけなのか-----!?>と思い、
<おーし、それなら、オレの直居教室免許皆伝の腕、とくと見せてやろうじゃないか!!>
 と思って、以前書いたシナリオを持っていくと、
「この本、面白いから、ちょっと預からせてくれる」
 との予想通りの返事でした。
 その作品は、シナリオ教室の研修科で、直居先生にプロットを提出したものでした。
 そのプロットを見せた頃、トム・クルーズ主演の日米合作映画(戦争映画で、『ラスト・サムライ』ではない)が進行中だった直居氏は、
「よくできたプロットです。これをハリウッドに持ち込んで映画化したら、世界的センセーショナルを巻き起こすんじゃないかな」
 と、言われたことのある作品でした。
 案の定、その企画はその制作会社段階では通ったのですが、
「局で企画が通ったら、シナリオは、他のライターに書いてもらうから」とあっさり言われ、
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ。このシナリオを書くのに、どれだけの資料を読み、何回書き直したと思ってるんだ!!」
 と、思わずキレそうになったほどでした。
 直居氏にもそのことを伝えると、そのプロデューサーとは一緒に仕事をしたことはなく、直居氏が以前書いた映画のシナリオを、テレビでやりたいとの連絡があった程度の知り合いだそうです。  
 やはり、そういう希薄な関係では、うまく行かないようです。
 こういうことがあるので、よほど信頼できるプロデューサーにしか、企画を持っていかない方がいいです。
 幸い、その企画はいまだに映像化されていないので、著作権をとっておくために小説にして出版しました。
http://www.amazon.co.jp/dp/B077LKZJYM
 こうしておけば、勝手に映像化されたとき、盗作だと訴えることができます。 
 プロデューサーと刺し違えるぐらいの覚悟がないと、この業界では生きて行けません。自分を安売りしてはいけません。断固として、主張し闘うことです。それで出入り禁止にするようなプロデューサーは、たいしたことはありません。そういう人とは、仕事をしなければいいだけのことです。自分と相性、感性の合う人と仕事をすればいいだけのことです。
 黒澤明監督など、実質、本木荘二郎、田中友幸プロデューサーとしか仕事をしていません。
 そういうプロデューサーに出会うことが、この業界で成功する秘訣かもしれません。
「日本の映画界が、欧米に比べて一番劣っているもの、それは俳優でも脚本家でも監督でもない、プロデューサーだ」
 そう言い放った黒澤監督は、東宝の誇る両エースプロデューサーに恵まれた幸運な監督でした。
 参考までに、そのときのシナリオです(その後、韓国版に直しました)。
http://www.amazon.co.jp/dp/B08ZLRLV1X

      ②に続く

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