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お題:約束「약속」

郁「先輩とちゃんと一緒にいれるトコに、合格します」

 郁はあの熱海の海で、俺に宣言した。
その言葉どおり、郁は俺の最寄り駅の沿線から通えるA大学に合格した。あの日、熱海の朝、「マジでがんばって、追いかけるから」と言い切った郁の言葉は本当だった。

 俺はそれまで1年住んだアパートを引き払って、郁の引越し先へ同居することになった。本当に2人で暮らすのか・・・。うまくやっていけるかな。ドキドキと、不安がないまぜになる。

 やっぱり一緒に暮らす以上、ルールを決めないとな。
 お金や家事分担のこともそうだけど・・・

1.遅くなるときは、必ず連絡すること。(無断外泊禁止)
2.2人の関係を他の人に言わないこと。(すでにバレてる郁兄、渚はのぞく)
3.自宅以外での手つなぎ、キスなど接触厳禁!

 はぁ。しかし禁止が多いなぁ。俺はともかく、郁はオープンな性格だから不安だ。
 あと、大事なこと。郁には最初に言わなきゃいけないと思ってることがある。長く一緒にいたら、覚悟が揺らぐだろう。
 郁のためというより、むしろ未来の俺自身への約束だ。
 いろいろ考えたけど、同居する前に、これを渡しておくことにする。

「お別れ券」
小泉郁が将来、女性を好きになって、家庭や子どもを持ちたいと思うようになったら、このカードを雨宮翼に渡すこと。

郁「なんすか、これ? ふざけてるの? 肩たたき券のノリで、こんな・・・」

 ─ 「俺は、男しか好きになったことはないけど、郁はまだわからないだろ? 
 普通の結婚をして、皆んなから祝福されて、自分の子どもを持ちたいと、悩む日が来るかもしれない。
 おまえを縛りたくない。だからこのカードを渡されたら、お前と別れて、俺はここを出て行く」

郁「こんなカード渡す日なんか来ませんよ! こんな約束守れないっす!
  だって女を好きになったこと今までだってないし、先輩と別れる気もないっすから」
郁「あ、でも渡す状況がなきゃ、約束そのものは守れるってことかな?
  え、でも、それって逆に先輩も??
  先輩は、俺に浮気されて平気なんすか?  
  先輩も浮気するかもしれないってことですか?!」

 ─ 「まあ、落ち着けよ。俺はそんな器用じゃないよ・・・」

郁「なんでせっかくやっと一緒に住めることになったのに、こんなもの渡すんすか。ほんとに冷血野郎だな」

 ─ 「俺はお前の人生を変えたかもしれないんだぞ。ほんとうに俺でいいのか、男でいいのか、不安なんだ。お前の”普通”の幸せを奪う権利なんか俺にあるわけないんだよ・・・」

郁「なんすか、普通、普通って。先輩は俺の幸せをぜんぜんわかってないですよ!」

 ─ 「・・・お前泣いてんのか?」 

郁「泣いてねーよ!」

郁「そんなに簡単に俺と別れられるつもりですか。俺をよそのやつにとられてもいいと思ってるんすか」

 ─ 「えーと、正しくはそうじゃない。”女性”って書いてあるだろ? 相手が”男”だったら、話はちょっと違う。簡単には・・・だからそのときは・・・あれだな、ゴニョゴニョ」

郁「聞こえるように言ってくださいよ!」

 ─ 「簡単には...譲れない…と思う...」

郁「もぉおお~!」

 ─ 「おい、ちょっやめ・・・!」「うっ」 ドンッ!
 ─ (ぷはっ) 

郁 (はぁはぁ)
郁「どうせこの後も、あれダメ、これダメってうるさく言うんでしょ。
  それより楽しいことしましょうよ。
  俺、入学祝いまだもらってないっすよね」

 ─ 「な、なんか、欲しい物あるのか?」(嫌な予感)

郁「わかってるくせに」
郁「ねぇ先輩。いつか別れる覚悟より、俺から逃げられない覚悟の方が必要じゃないですか?」

 ─ (ぐはっ)

fin



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