見出し画像

キミの手が肩にふれたら

お題:別れ「이별」
#너사대_전력  雨宮翼・高校3年3月引っ越し間近

(軽微なBL表現がありますので、苦手な方はご注意ください)

郁「それと」
郁「その」
郁「慰め… も (ポンッ)少し…」
  ─ 『キミの恋について』33話、34話より

高校を卒業したら、大学のそばにアパートを借りることにした。
もともと物が少ないけど、生活必需品をのぞくと、かさばるものは本だ。
推理小説とかつい買ってしまうけど、一度読んだら読み返すことはほとんどない。
本棚からピックアップして縛ってしまおう。

─ 「あっ」
本棚の一番下のすみに押し込んだひしゃげた箱。
これは、・・・いわば俺の黒歴史だ。

好きだった人の写真。
出せなかった手紙。
古い日記。
アドレス帳。
こっそり買ったお揃いのシャープペンシル。

うわっけっこうキモいな。
この思い出は自分だけのもので、どこへもいけずに一生抱えていくものだと思っていた。

普通じゃない。人に言えない。今まで何度恋をしても、叶うわけないとあきらめていた。
自分の態度で相手が変わってしまうのが怖かった。
なんでこうなのか悩んだところで変わりようもなく、ただひたすらに気持ちを押し殺すしかなかった。

---------------------------------------

ぼんやりしていると、過去の記憶が蘇ってくる。

「誰が 好きなんだ?」
「お前ゲイか !?」
「なんだ図星か? アハハ」

「バレバレっすよ」
「見返りなんて ありえないのに どうしてそんなに尽くすんすか?」
「マジ だせぇ」

しかし小泉にもさんざんなこと言われたな。
結局謝られたけど。
輪島に振られて泣いてから、小泉から逃げてつかまったあの廊下で、肩にポンッと手を置かれたとき・・・。
初めて小泉から、気持ちを受け取った気がしたんだ。

---------------------------------------

「先輩?」

優しい声。
肩に温かな何かがふれる。

さっと、光が射したような気がした。
箱の隅に見えていた黒い影がばらばらになって、消し飛んでいく。

郁「どうしたんですか? ぼーっとして」

目の前に小泉が心配そうにのぞきこんでいる。
肩の手を確かめて、引き寄せる。見られないよう箱をおしのける。

─  「小泉・・・・」

郁「え? 先輩?」

おもわず小泉を抱きしめていた。
はっと我にかえる。ちょっと恥ずかしくなって胸を離す。

─ 「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」

郁「そうですか、てか、もう少し抱きしめさせて」
郁「1日ぶりのチャージ(笑)」

─ 「これからは1週間に1回だって会えるかわからないのに、1日で電池切れってだめだろ(笑)」

郁「うーん」

小泉の手が、俺の頬を包む。
鼓動がどんどん大きくなってきて、胸が苦しくなる。柔らかで湿っぽくて熱い感触。
顔が熱い。

郁「また、あとでゆっくりね♡」
郁「焼き肉の材料買ってきたんで、飯にしましょうよ。すぐ支度しますから」

郁の料理は楽しみだ。
─ 「あ、俺トマトサラダも食いたいな」

郁「へへへ。トマトも買ってきましたよ」

顔をつねりたいほど、幸せだなって思う。

---------------------------------------

もう、大丈夫。
お前の声が、お前の手が俺に触れて、あの箱の記憶から抜け出した。
あの箱だって、無理して捨てるわけじゃない、単純にもう興味がない。
もうどれもいらないものだ。
もっと大事なものができたから。

バイバイ。

これからは小泉との思い出で新しい箱を満たそう。
ああ、そうだ、去年の秋にとった空公園の「すすき祭り」の写真。小泉の笑顔がよく撮れてたな。
この笑顔にはやられる。

画像1

いっぺんには変われないけど、少しずつなりたい自分に近づくんだ。
お前が笑顔でいられるために、俺は何ができるのか、それだけを大事にしたい。

いいよな?
過去の俺。

fin



サポートいただければ、大変励みになります。いろんな資料の購入やレベルアップに役立てたいと思います。 何より、読んでくださってありがとうございます!