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二番煎じキメラ

「この現世にオリジナルなんてものは無い、ここにあるのは二番煎じキメラだけさ」
ボブはそう語る。


というのも、ボブはエレメンタリースクールに通っていた頃、意外なことにphysicsは得意だったのだ。

mathやchemistryは苦手なのに、どうしてなのだろうと疑問に思うかもしれない。しかし、エレメンタリースクールレベルのphysicsのテストは、教科書や問題集に書いてあるものをそのまま覚えて、それを書き写すだけで点数が取れてしまうのである。なので、ボブでもできる。


そして今日は、遠足。
この遠足は、今回のphysicsのテストでトップ4に入れた人だけが参加できる特別な遠足だ。なんてラッキーなボブ。

ちなみにボブの他には、幼馴染のアリス、新キャラのケビンとエミリーがいる。


長い電車の旅を終えた一行は、physics博物館に到着した。

館内の入り口付近には、名物の重力加速度が展示されている。
これはphysicsの教科書ではGと表記されていることが多い。そのため、お爺さんのような見た目をしている。確かに長いことこの地球というか宇宙に居座っているのだから、しわくちゃになってしまうのも仕方がない。

次に彼らが目にしたものは、二重スリットTシャツである。
これは縞模様をプリントしている最中にチラチラ観ていると、ボーダーが2本しか現れなくなってしまうのである。
ボブは2本しかボーダーが無いのは嫌なので、チラチラ観ないようにしていたが、他の3人がチラチラ観ていたため、2本になってしまった。
やはり3人に勝てるわけがなかった。

他にもマクスウェルの悪魔が飼育されていたり、シュレディンガーの猫を実演するショーがあったりした。
この辺りの説明が雑なのは許していただきたい。このお話の作者は、ボブでもできるphysicsのテストで毎回赤点を取るほどのアホだからである。仕方がない。


ここで遠足も終盤。
彼らはヘックシ粒子の観測体験コーナーに来ていた。

やることはいたってシンプルで、加速装置を使って加速しながら、くしゃみをするだけである。

くしゃみをすると、つい他の人にくしゃみが移ることがあるが、それのもとと考えられているものがヘックシ粒子である。
このくしゃみが移る確率は、加速装置で加速することによって、なんと100%に収束する。つまり、ヘックシ粒子が観測しやすくなるということだ。

そのため、このコーナーは加速する者、くしゃみを移される者の二人一組で体験する。


まずは、ケビンとエミリーのペアがやってみる。

結果は成功。加速役のケビンのくしゃみが、エミリーに移った。ヘックシ粒子も無事に見つかった。
これを見たボブとアリスは、これならば自分たちもできそうだと安心した。


次はボブとアリスの番だ。

加速役のアリスは加速装置の中に入り、入念にくしゃみ用のティッシュを細長くねじった。
「絶対、失敗はできない、ボブを巻き込んでしまうのだから」
アリスは思った。

落ち着く間もなく加速は始まる。最初はやはり不安もあったが、いざ加速し始めてしまえば、もうノリノリである。加速うれしい!加速楽しい!加速大好き!

アリスが加速し慣れ始めているのを見たボブは安心する。期待する。早くアリスのくしゃみを移されたいなー。わくわく。

頃合いを見計り、アリスは準備しておいたティッシュを鼻に突っ込んだ。きっと上手くできるはず。祈るようにティッシュを動かす。

祈り、祈られ、祈る。くしゃみ神に。

そして、ついにアリスはくしゃみをした。

「…ハヒッ、…ハヒッ、……、ハァァアクショゥイエァァアアァア!!!!、……ンヒッ」

驚くのも無理はない。アリスのくしゃみはクセが強いのだ。ボブは幼馴染なので当然知っていた。他みんなはどういう顔をすればいいのか良くわかっていなかったが、これを聞いたボブの期待は高まっていく。わくわく。

しかし、ボブのくしゃみは

「…ヒッ、クシュ」

と小さいものだった。


くしゃみは無事に移り、ヘックシ粒子も観測できたため、結果は成功なのだが、ボブはなんだかスッキリしなていない。彼は、どうせならば、あの強烈な個性を持ったくしゃみを移されたかった、自分のものをにしたかったのだ。少し悔しい。

無理矢理にでもスッキリしたいボブ。後でアップルパイでもBAKEしようと思い、ニュートンのリンゴをお土産に買ったのだが、当然、入り口付近の重力加速度に落とされてしまう。これでは使い物にならない。泣きっ面に蜂だ。


今回の遠足でボブは、強い個性は案外、他人に移りづらいものだということを学んだ。


帰りの電車でボブは使い物にならなくなったリンゴを眺めながら思う。「明日世界が滅びるわけはないけれど、校庭にでも植えておこう」

ボブには似合わないセリフだ。


そんなボブ、今まさにリンゴを育てている。

というかリンゴのポ◯モンである。

このリンゴのポケ◯ン、与えるリンゴの特徴によって異なる姿に進化をする。ボブは愛情込めて育てたこのホ◯ケモンをどれに進化させようか悩んでいるのだ。


結局、どう進化させるか決められなかったボブは帰り際に言った。
「アップルパイよりも、チョコパイの方が好きです」

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