20190323-A

「あー」
彼女は背もたれに仰け反ると、グラスの底で瞼を冷やした。
「『ときめかなくなった』ってなんだよー。それは安定とは違うのかよー」
無防備に曝された白い喉から、掠れた恨みが溢れる。僕の返事を求めない問いが、宙を漂って天井に消える。彼女の手の中で、カラン、と氷がひっくり返った。

僕を好きになれれば、きっと幸せになれるだろうに。求めるものが僕であれば、彼女はその全てを手に入れられるのに。
「はぁ……。まぁいい、いいでしょう。ときめきしか見てないような、恋に恋してるやつはこっちから願い下げだよ。な?」
グラスを呷る彼女の腫れた目は、ついぞ僕とは合わなかった。

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