第11話 Première




少しずつ寒さもやわらいできて日も長くなり始めていた。


什器なども順調に出来上がっていて、いよいよオープンが見えてきていた。



いやー、店出す前はいろんな人からフランスはいろいろ遅れるよ遅れるよと

いやというほど聞いてけど

全然工事とか遅れへんやんフランスっ!ちゃんとしてるやんっ!


そんなことを思いながら、

パトリシアのショールームの仕事の準備は工事中の店の中での作業となった。



会場装飾と呼べるくらいの装花をパリで初めてやってみてわかったのは

日本と比べてはるかに仕入れが安く済むということ。



小さなブーケを作るくらいだと、5、6種類入れようと思うと、

日本とそんなに変わらないんだけど、

大きな装飾をする場合は、枝物やアジサイなど大ぶりなものが特に安い。


花一輪もそもそも大きい。





パリのフローリストの花を見ていてすごいなぁ、豪華だなぁと憧れていたのには、

ある種の素材においては、そもそも安く手に入るという理由も一つあるということがわかった。



春先で季節のいい枝が出ていたが、秋冬シーズンのファッションウィークということもあり、

黄色みのつよい大きなユーカリの枝とバラをたくさん仕入れた。



日本でアパレルブランドと仕事をするときは、実売期の立ち上がりにシーズンを先取りするので、

春の装花が必要になるのは1月の中旬くらいで、

ちょうどその頃市場の方も春の花が最盛期となってくるのでちょうどいいんだけど、

パリのファッションウィークの仕事は春に秋冬の仕事をするということか。




とはいえ、とにかく自分が綺麗と思えるものを。


クライアントの要望を満たしているだけの花ではなく、

自分自身が見惚れるような花を。

たくさんのバラを使ってパリ1区のど真ん中のウィンドウ側を華やかに飾った。



アイロニーの装花のパリデビュー戦だ。



パトリシアはとても喜んでくれて、その後も終始ご機嫌なようだった。

あなたをみんなに紹介したいから明日のパーティには必ず参加してねと念をおされた。




翌日のパーティでは、パトリシアは忙しいにもかかわらず、

ほんとうにたくさんの人を紹介してくれた。



パトリシアがPRを担当しているブランドの一つであるyucca'sという靴ブランドのデザイナーのゆかさんもそのうちの一人だ。

彼女はイタリアで靴を作る日本人で、イタリアの熟練の職人によるオールハンドメイドの靴は、

友人のバイアーに聞いたところによると、その辺のセレクトショップでは簡単に取り扱えない

品質も価格もトップクラスのものだと言っていた。



そんな人とは思えないほど、気さくな人ですぐに仲良くなった。

彼女といろいろな話をしている時に、パトリシアの話になって驚いた。



パリでは、この時期にプルミエールクラスという服飾小物の見本市も開催されている。

そういえばチュイルリーに大きな白いテントが出来上がり、その会場になっている。



今はずいぶんと大きな規模になって商業的なものになっているらしいが、

スタートした10年くらいは、靴や帽子やバッグなどを作っているデザイナーに

とってはプルミエールクラスに自分のプロダクトが出展できることは

一つの大きなステイタスだったらしい。



そして、なんとそのプルミエールクラスを立ち上げたのがパトリシアで、

当時の厳しいセレクションを担当していたのも彼女なのだという。



このときの仕事をサポートしてくれたエドワンというパトリシアの男性アシスタントに、

なぁなぁパトリシアってすごい人なん?と聞くと


有名な人で、彼女と働けることはとても光栄なことなんだよ!と興奮気味に話していた。


そういえば、はじめての打ち合わせの時にそんなようなことを言っていたような気がしたけど、

イマイチ理解できてなかったようだ。



しかし、そんな人がアイロニーの花を選んで、今たくさんの人に紹介してくれている。


これは本当に幸先がいいぞと胸が高鳴った。



パーティには、もちろんバイヤーなどあちこちのファッション関係者が多く集まっているので、パリの人よりも他の国の人が多かった。



花を褒めてくれる人たちと話をしていて、もう直ぐ店がオープンするからきてね、どこにすんでるの?

と聞くと、イタリアやアメリカなどいろいろな国の人がいることがわかった。



あー、パリの人ならよかったのに、と一瞬思ったが、


パリに店を出すというのは、

こうして世界中の人に花を見てもらえるということで、



マーケットが、パリにだけ広がったのではなくて、


世界中に広がったんだということを感じさせてくれた。




そういうことを考えながら、たくさんワインを飲んで、パトリシアが陽気に踊り出すのを笑いながら

夜が更けていった。



翌朝、信じられない知らせが届いた。


契約や手続きなどをサポートしてくれている会計士事務所からだった。



店が通りに面したファサード部分は、変更に申請が必要だというのは知っていた。

京都と同じように観光資源としても景観が大切なパリの街だ。

勝手なことを許すわけにはいかないだろう。



その申請をお願いしていたのだが、

新しい問題が浮上した。



ナターリアのお母さんが俺のために前の店子から買ってくれた営業権では

花屋はできないのだという。



花屋はアルチザンといって手工業に分類されているので、

営業権の種類を変更する必要があるのだという。



さいわいそれは、役所への申請だけで出来るそうなのだが、

問題は、その期間だった。



営業権の変更の申請をして、

店のファサードの変更の申請もした場合、

役所の連動の関係で、両方が認められるのは早くても半年後になるのだという。



思わず電話口で、「うそやーん」と笑ってしまったが、本当らしい。


しかし、会計士事務所の人は、

でも安心してください谷口さん、この二つの申請を同時にすることができるのです。

そしてそれを同時にするえば、許可が下りるのは短縮されて4ヶ月程度ですむのです。



もう一回「うそやーん」と言ってしまったが本当らしい。

工事は1ヶ月で終わるのに、4ヶ月も空家賃を払い続ける?



あれこれ話し合っても解決策は出てこないので、


違反したらどうなるかというところまで調べてもらった。


3百万の罰金もしくは禁固6ヶ月とか、なんかリアルな数字が出てきた。。。


さてさて、どうしたものか。。。。



à suivre...

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