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園部を歩く 和歌山毒物カレー混入事件(12)

 かつて、和歌山県和歌山市園部地区は明治時代には園部村として村政がされていたが、1889年に六十谷村と合併し有功村となった。
 その後1958年に和歌山市と合併し、園部地区となる。和歌山市との合併時の人口は2776人であったが、1960年代後半より上水道の整備が行われ、和歌山市のベッドタウンとして人口が増加し、1970年代には1万人を超えた。
 和歌山市園部地区は80年代に開発された新興住宅地だ。その中で事件のあった第14自治会は事件当時65世帯、約210人が住んでいた。園部地区は別段何の変哲もない和歌山市の一角だ。

 事件現場というものは、写真や動画で見たものと随分違うことが訪れてみるとよくある。あの感覚はなんだろう、思ったより小さかったり、思ったより狭かったりと、大きな事件ほど自分の心象が反映しているのか、「こんなに普通なんだな」と感じることが本当に多い。
 知らず知らずのうちに闇のエネルギーを秘めた歪みのようなものがあると好き勝手に想像しているのだろう。本当に人間の認知は当てにならないとつくづく感じる。

 和歌山市のベッドタウンだけあって、新しい店も古い店も国道沿いに多くあり、その国道沿いに住宅街が広がっている。
 国道7号線を走り、もう少しで到着と思っていたところに急にお好み焼き店「つかさ」が見えやや面食らう。昔からある地域の有名店のような佇まいだ。

道路沿いにすぐ見えるお好み焼き店

 例のガレージまでは生活道路が続いておりそこまで道幅は広くない。これでは道沿いに何台か路駐していればトラブルになるのもわかる。もう一件のお好み焼き店、まるふくは今は跡もなく、2件のお好み焼き店はこんなに近いのかとやや驚いた。

まるふくの跡地周辺

 周辺には駐車できるスペースもなかったため、車を停めたあと歩いて周る。すぐにつかさの向かいにあった前田外科が見えてきた。あの夜、嘔吐者が続出し、夜間に訪問し開けてもらった外科だ。もっと小さな診療所レベルのクリニックかと思っていたが入院もできるほど結構大きい。

 前田外科を右折し、つかさを左手に見ながら進むとあっという間に突き当たりになり、例のガレージが見えた。
 ここで事件現場を訪れた時に感じる奇妙な感覚に襲われた。ここで4人の人間を殺し、60人余りの中毒者を出した毒カレーが作られた。日本では類を見ない大量毒殺事件にも関わらず、なんと言うかあまりにも長閑で、昔ながらの日本の住宅地だ。こんな小さなコミュニティの中で、歪んだ精神を持った者が誰かを傷つけるために毒物を投入するだろうか。あまりにも浅はかで頭が悪い。やはり砒素がどんな毒物か知らずに入れたと考える方が自然だ。
 ガレージは思っていた以上に狭かった。ここに鍋を二つ置いて主婦5〜6人でも集まればもう一杯だろう。その中でごちゃごちゃと何かをしていてもあまり見つからないかもしれない、と感じた。

例のガレージはまだ存在する

 夏祭り会場跡地は家が何軒か立ち、もう3割ほどしか空き地は残っていなかった。ガレージから会場までは徒歩何秒のレベルだ。あまり広くなく、櫓を建てるような規模でなかったのはすぐにわかる。

会場跡地

 会場を正面にし、左手に進むと林死刑囚の自宅跡地がすぐに見える。今は何もなく、跡地には草防シートがかけられていた。林死刑囚自宅から調理ガレージも会場も驚くほど近い。徒歩1分もかからない。

林家跡地

 自宅跡地を奥に進むと家沿いに用水路が見える。ここが林死刑囚の夫がある日ゴミを捨てていたとされる用水路らしい。ここにゴミを捨てるって、なかなかの変わり者だ。確かに、この土地で働いてないヤクザ風の男が夜な夜なカラオケをしたり、定職についてない男たちが麻雀のために出入りしてたら恐ろしく目立つだろう。周囲ではかなりアバンギャルドな存在であったと思う。
 さらにこの用水路沿いは大量のマスコミが座り込んでいたところだ。車が通れる道ではないため、確かに張り込むにはちょうどいい通路だ。ここに住民を越える数のマスコミがいて、近所をうろうろとしていたら例え疑われてなくとも簡単にノイローゼになりそうだ。やはり狂気としか思えない。

集団ストーカー集合場所

 通り過ぎてしまったが、例の女子高生の家もガレージのすぐ近くにあった。2階からでも1階からでもガレージはそれとなく見えそうだが、隣家の塀により見えても上半身程度だろう。
 2階からは植木で見えない説もあったが、植木の背はそこまで高くない。どちらから見ていたにせよ窓から十分ガレージの方向は見えるが、おそらく手元や鍋などは全く見えないだろう。彼女の記憶は情報により補填されてしまった可能性はやはり高いと感じた。

女子高生の家方向からガレージを覗く

 林家と女子高生の家、ガレージの家は思った以上に密着していた。大きな声で話していれば庭にでもいると十分聞こえるだろう。

ガレージから国道方向を覗く

 そして、証人出廷しなかった少年が見ていたとされる、当時駐車場で自販機があったあたりに立ってみたが、そこからガレージはかなり近い。確かに歩いている人間の持っている紙コップの色は十分見えるだろうが、重ねられた紙コップはかなり関心を払ってないとわからない。

白い塀の奥あたりに少年はいたようだ

 14自治体をぐるりと歩いてみた。古くからの農家の家などがあるものと想像していたがそうでもない。雨水ポンプ場方向に行くほど家は新しくなっていたが、せいぜい10年ほどの差の家の作りだ。
 古くからの農家であれば砒素の存在があるかもしれないと考えていたのだが、大きい倉庫や蔵などを持つ家は14自治会には存在しなかった。そうなれば確かに危険な毒物である砒素を持っていること自体が特異である可能性はある。やはり小瓶の詳細が重要だ。
 そして、ここで夏祭りが開かれたとしても、近隣住民以外は知り得ない規模だ。毒物を使う愉快犯にしては規模が小さすぎるし、確かに子供による犯行も考えられる。それなら悪戯程度にしか考えていなかった可能性がかなり高い。
 園部を後にする前ににもう一度ガレージを見るが、またも不思議な感覚に襲われた。そう、わざわざこんなところでこんなことをやる必要がないのだ。この場所は、どうやっても自治体の住人にしか容疑のかけようがないところだ。そして、住人にしか投入できないところだ。

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