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ぱたんぱたんぱたんぱたんと
わたしのこころは閉じてゆき
最後にきっかり鍵まで閉めて
じゃあさようならごきげんよう

激しく叩くあの音も
すっかり聞こえなくなった
どうして と不思議そうに
彼らは聞いたけれど
本当は知っていたはず
本当に知らなかったのなら
わたし以外の誰かから
教えてもらったほうがよい
わたしからはもう何ひとつ
伝えられることはないのだから


静まり返ったわたしのこころに
控えめなノックの音がする
コンコンコン
すいません鍵がかかっています
コンコンコン
開けるのが怖いのです
もうずいぶんと長いこと
開けることもなかったものですから

小さな扉の向こうから
あの花の匂いがする
シナモンの匂いがする
あたたかな生き物の気配がする
ステンドグラスにゆらゆらと
赤い何かが揺れている
林檎だろうか

おひとついかがと声がする
まるで鳥たちがさえずるような
朗らかな声がする
憶えていますかいませんか
まぁどちらでもよいのだけれど

忘れるはずもないのだけれど
隅の方でひっそりと笑う

あの夜からわたしはずっと
もうずいぶんと長いこと
鍵を探しているのです
  






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