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    昔の言葉も今の言葉もごちゃ混ぜに。

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    いつかの呟き

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触れない

冗談めいた言葉でしか 心の内を明かせなくて なんとなくこぼした言葉を わたしが余所見してる間に ひとつふたつと拾い上げて 否定するわけでもなく 馬鹿にするわけでもなく それはもう 仕方がなかったんですよと 彼女は笑った 聞いていないようで聞いていて 知らないようで知っている 自ら触れることはなくとも ひとつ言葉がこぼれれば 怒ればいいのにと怒ってくれて どうしてあなたひとりだけが 今なお傷つけられなければ いけないのかと 無理に明るく振る舞うことも 何事もなかったかのよう

    • 嘘だろ

      嘘だろ、みたいなことが最近頻繁に起こる。ありえない偶然とか超常現象とかそういう類のことではなくて思わず自分に自分でツッコミを入れたくなるようなことだ。 部屋中のカーテンを洗濯してひとつひとつフックにかけていく。あれ、何これ。動くん?カチカチカチ。嘘、だろ。夜遅く帰ってきてうちだけ光が漏れてるのはそういうことだったのか! 40年以上生きてきて今かよ。忘れていたのか? 一体いつから?嘘だろ。嘘だと言ってくれ。 母が辣油をぶんぶん振り回している光景が頭に浮かんできた。これ新品やのに

      • 寄せては返す

        繰り返されている どこからが始まりで 終わりは一体どこにあるのか 繰り返されている 響き渡る怒号 何かが割れる音 痛みなんてどこにもない 振り返らなければ 悲しみなんてどこにもない 閉じ込めなければ なんかもう笑えるんだ からりと乾いているんだ 湿っぽいのは苦手でね いつだって笑えるんだ 晴れ晴れとしているんだ よいことも悪いことも 寄せては返す波のように 繰り返されるのだから 猫が猫かぶって生きてくなんて 冗談みたいな生き方は もうそろそろやめにするんだ 目が覚

        • うつくしいものたちの

          これからどこへと尋ねられ さぁどこへでもと微笑んだ 割には足踏みばかりして どうにもこうにも恥ずかしく 春が来るのを待つばかり 待っていたって来ないわよと 雀たちにも笑われて うつむいてはまた足首を撫でる 白き風に菜の花は揺れ 水田はかがやいて 涙ひとつ転がり落ちて うずくまる己を恥じるほど 何もかもがうつくしい 水鳥の羽ばたく音 羽を広げ羽ばたく音に どれだけ背中押されたことか さぁあらためてこれからどこへ どこへでもない場所へ 分け入っても分け入っても 辿り着かないの

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          花束みたいな

          先延ばしにしていた映画をようやく観た。といっても昨日今日の話ではなく下書きからすでに1ヶ月が経とうとしていることに気づきゾッとする。どうにも時の流れが早すぎる。 おおよそ3年ぶりに遊園地に行った。 背が伸びて一人でゴーカートを運転する子の姿に時の流れを想った。3年か。 寝て起きて見知らぬ人に今は2034年ですよあなたは10年も眠っていたのですよと言われたとしても今のわたしならあぁそうですかとすんなり受け入れてしまうかもしれない。おや、と振り返れば夏になっているような飛ばし飛

          花束みたいな

          スーホの白い馬

          もしもわたしがいなくなっても わたしはあなたとともにある スーホの白い馬のように もしもわたしが変わっても わたしはあなたとともにある 風に溶ける音色のように 朝焼け光る草原を たてがみ揺らし駆けてゆく あの勇ましくうつくしい スーホの白い馬のように わたしはあなたと ともに生きたい その手に触れることはなくとも

          スーホの白い馬

          ぱたんぱたんぱたんぱたんと わたしのこころは閉じてゆき 最後にきっかり鍵まで閉めて じゃあさようならごきげんよう 激しく叩くあの音も すっかり聞こえなくなった どうして と不思議そうに 彼らは聞いたけれど 本当は知っていたはず 本当に知らなかったのなら わたし以外の誰かから 教えてもらったほうがよい わたしからはもう何ひとつ 伝えられることはないのだから 静まり返ったわたしのこころに 控えめなノックの音がする コンコンコン すいません鍵がかかっています コンコンコン 開け

          迂闊

          あたたかく響くのに 触れたら凍えてしまいそうな 張りつめた冷たさの中に 計算され尽くされたようでいて 未熟さを覗かせるような 首元にナイフを突きつけて それでいて満面の笑みを浮かべて 背中を優しく撫でるような 一瞬の沈黙の狭間に 見え隠れする諦観と 見慣れたポーカーフェイス 誰の目にもうつらない場所で 触れてみたくもなるような 迂闊には 触れられないな たしかに君は魅力的 恐ろしくなる程に 触れたら最後 みるみるうちに 目の色が変わってしまう 迂闊には 触れられないな

          ワイパー

          雨粒が フロントガラスに落ちてゆく 可哀想に 風が強い 菜の花は散る 春はまだか あちらの花はひとつふたつと 咲き始めたというのに あぁほんとうに 可哀想 気にするほどの ことでもないが さぁ 哀れみと蔑みの 境界線を教えてくれ どうかそのまま 振り返らずに ワイパーの速度を上げる 右へ左へ 右へ左へ 視界良好 視界良好 雨粒は 絶えることなく落ちてゆく

          ワイパー

          変容世界

          貴方のことを知るまでは 何の変哲もない一日だったのに 無味乾燥な毎日が 続いていくだけの日々だったのに 貴方のことを知ったから いつしか特別な一日になり 笑ったり泣いたり怒ったり ほんの些細な出来事に 一喜一憂したりして 変幻自在なこの世界の 紛れもない真実を知る この目に映る世界は全て わたしの心が決めているのだと 貴方のことを知るまでは 何の変哲もない一日だったのに 貴方のことを知ったから わたしは今日を抱きしめる

          変容世界

          意味なんて

          何故あのひとは夢の中でたこ焼きを焼いていたのだろう。しかもあんなに慣れた手つきで。 朝起きてからずっとそのことを考えている。 真っ暗な駅のホームに小さな電球がひとつぶら下がっていて薄暗い灯りの下であのひとはただ黙々とたこ焼きを焼いている。 人々は皆うなだれて窓の外を見ることもない。 音もなくゆっくりと電車は通り過ぎていく。 あ、たこ焼き。あんなにたくさん。 誰も買わないのかしら。 あんなに心を込めて焼いているのに。 わたしなら全部買うのに。 この電車、いつになったら停まるの

          意味なんて

          またいつか

          すべての人間には 選んだ道と選ばなかった道があり 選ばなかった道は 消えてなくなってしまったかのように 思えるけれど ほんとうはこの広い世界のどこかで もうひとりのわたしが 堂々とその道を歩いている そう考えると愉快な気持ちになる ようやく嵐は去りましたよ ねぇ そちらはいかがですか 世界は幾重にも重なっていて 全てがひとつにはならないし 辿り着きたいあの場所は 遥か遠くに思えるけれど 道はどこまでも続いていて 何も見えない光のほうへ 大きく大きく手を振ったら 花を愛で

          またいつか

          波の音

          窓を開ければ 海の匂いがします 鳥のさえずりも聞こえるし 笑い合う声だって 波の音 あんなにも荒々しく 騒がしかった波の音だけが 聞こえなくなってしまった それが不思議でたまらないのです 通りすがりの猫はするりと 足元をすり抜けて 喉をごろごろ鳴らしている 雑音は 聞きたいやつの耳にだけ 届くようになっているのさ

          本の匂い人の匂い

          玄関のチャイムが鳴った。 ポストに投げ込まれることもなく手渡されたそれは本の梱包にしては珍しい厚みのある箱だった。段ボールを開けると桜餅の匂いがした。 以前も同じ匂いがしたような気がする。 上下をエアクッションに挟まれて堂々と鎮座している本が目に飛び込んできた。さぁ読みたまえ。 はい読ませていただきます。 箱からそっと取り出して手に取ると風に吹かれてざぁっと木々の揺れる音が聞こえたような気がした。添えられた手紙とともにしのばせてくれたのかもしれない。しばらく空を見上げる。

          本の匂い人の匂い

          ドライフラワー

          笑ってる顔が見たいからと プレゼントされた花束は 小さな花瓶に水を注いで 窓辺に置かれたその花は ひとつふたつとひらいていった 部屋いっぱいに 甘い匂いが広がった あなたがくれた花束は ずっと大切にしてきたけれど 時々しぼんでしまったりもして いつまでも花びらを撫でてみたり 何度も水を替えてみたり いつかは枯れてしまう いなくなってしまう それが怖くて仕方がなかった 形を変えてしまうことが あの匂いを感じられなくなることが いっそのこと ドライフラワーにして 甘い香水振り

          ドライフラワー

          ちがうんです

          ちがうんです そういうことじゃないんです それならどういうことなんです わたくしにもわからないんです ちがうということはわかるんです ちがうんです そういうことじゃないんです にているようでちがうんです いったいなにがちがうんです つたえるすべがないんです こぼれてゆくばっかりで ほら これとこれとはちがうでしょう いったいどこがちがうんです どこがといわれましても ことばがほしいわけじゃないんです ましてやすべてに うなずいてほしいわけでも こころのうちをひとつのこら

          ちがうんです