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差し出された記憶

人間の記憶は曖昧でともすれば他人からあっけなく上書きされることもある。
布団に寝転がってまだ子どもたちが小さかった頃の写真を一緒に眺めながら昔の話をする。
それらは嘘ではないけれどもおそらくは正確なものでもない。笑い合った記憶だけをピックアップして何度も何度も話をする。

なつかしいなぁ。子どもたちは呟く。
憶えてるの?いやあんまりおぼえてないけど
いつもママが楽しそうに話すからそうだったんだろうなって思ってるよ。


差し出された記憶を受け取って永遠に微笑んでいてくれたらいいのに。
都合よく刻まれた記憶を疑うこともなく抱きしめていられたらいいのに。

根拠なんか探さなければいいのに。
正解とか真実とか目に見える確信とか
手を伸ばせば伸ばすほど遠ざかっていくのに。

砂でできたあの城はいつか突然崩れ落ちて
わたしは砂に埋もれるのかもしれない。
覚悟はしているつもりだけれど
それが怖くて仕方がない。


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