忘れ物ですよ
忘れてしまったことがある
ということをしばらく忘れてしまっていた
あの頃の感覚はどんなだっただろうか
あの真夜中の無敵感は
どこから生まれてどこへ消えていったのだろうか
薄暗い部屋で
寝る間も惜しんで聴いていた音楽の色彩は
どんなだっただろうか
最終の電車に乗って
真っ暗な夜道を時々振り返りながら
むせるような深い夜の匂いと共に
去りゆく電車の音と共に
わたしは
どこへ向かって
歩いていたのだったか
置いてきてしまったものを
わたしはいつか
取りに行けるだろうか
忘れ物ですよ
そう言って誰かがそっと
届けてはくれないだろうか
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