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イントレプレナーの実践と苦悩...! 社内ベンチャーについて話そう

Hello, people.

社内起業に興味があったり、実際に目指しているものの「失敗がこわい」「社内からの目が厳しそう」などと躊躇している方も多いのではないでしょうか。
そこで実践的ビジネスコミュニティ GDA(Good Days Association)では「イントレプレナーの実践と苦悩...!社内ベンチャーについて話そう」をテーマにウェビナーを開催。
三越伊勢丹ホールディングスで社内起業家をサポートしている塚谷一貴さん、ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社で社内企業を実践中の土屋淳一さん、株式会社bridgeでクライアント企業内の新規事業の立ち上げや組織づくりを支援している大長伸行さんに登壇いただき、社内企業に関するさまざまな事例をまじえながら、生じがちな障壁や、それを乗り越える方法などをディスカッションしました。その内容をお届けします。

社内ベンチャーの壁とチャンス

大長 社内起業で抱える課題はみんな一緒。0から1をつくるときはフェアウェイとOBゾーンがどこかわからず、アイデアは集められても評価ができない。募集をかけると営業や既存事業担当の人は少なくてR&D(研究開発)の人が多いですね。
いざ始めると評価する側も評価に迷い、採択されたらそこから必勝前提のマネジメントが発動するので、もう脈なしとは言いづらい。既存事業担当の人からすると時間が余っているように見えるので共感も得られにくく、肝煎りといわれている割に既存事業との提携はできず、だんだん孤軍奮闘していって「あれ、本当はやりたくなかったな」と感じてしまう。そうしたバッドエクスペリエンスがループして、そのイメージが社内にも伝搬し、2〜3年で社内起業というもの自体が先細りしていくパターンが非常に多いです。

土屋 あるあるですね。とくに企画の人間は同僚から暇だと思われがち。R&Dから出るのも既存事業の上からのアイデアです。新しいことをやろうとしているのに、周囲を巻き込みにくいんですよね。

塚谷 社内新規事業と既存事業ではそもそものプロセスや、何をやらなければいけないかの論理が全然違う。そこをまず社内の人に理解してもらうのは意外と大変で時間もかかります。

大長 そうした中で、成功を目指すまでの期間はだいたい3年が目安。一般のスタートアップベンチャーは複数の投資家にお願いしながら、実験できる期間を先延ばしししてくことができますが、社内起業の場合、投資家は自分の会社しか選べません。
成功するためのポイントは、熱狂的なファンを3年以内に作ること。僕が手がけたMANARAさんのプロジェクトでは、「MANARA愛」にあふれる人をどう作るかに注力しました。熱狂的なお客さんがついているとわかれば、会社も長い目で見て投資してくれやすくなります。

土屋 事業に関連する地域の人から巻き込む、という戦略もあると思います。私は会社のレモン事業を担当し始めた頃、生産地である広島の方々を巻き込んで、外堀を埋めてから社内を説得した経験があります。新しいことをやる中で、会社以外の人の理解、評価はすごく大事。それが自分の自信になり、社内にも説得力のあることが言えるようになります。

塚谷 感覚的に訴えるのではなく、具体的にこういう協力者がいる、価値がある、と提案することで社内の人の気持ちを盛り上げることは大切。そこにはテクニックもいりますが、うまく外部を巻き込むとチャンスが作れます。

「社内で新規事業や外部経営者に触れる機会を」三越伊勢丹ホールディングスの事例

SNACK+ イベントの様子

塚谷 私は3つの事業を担当していて、メインは社内起業家のアイデアを判断し、一緒に磨いて経営に届ける、いわゆるイントレプレナー事務局の仕事。また三越伊勢丹イノベーションズというCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の責任者としてベンチャー協業を推進。さらにSNACK+(スナックプラス)というイベントを開催し、新規事業が生まれるための土台、組織、風土、文化を作ることにもチャレンジしています。
イントレプレナー制度は3年前にスタート。短時間雇用マッチング事業とふるさと納税事業の2つが1期で採択され事業化しました。また新宿伊勢丹の売り場がバーチャルで見られ、そこからECサイトに遷移して買い物もできるレグワールドは2期で採択されて事業化推進中です。

CVCでは様々な企業に出資していますが、私自身はフードデリバリーの「スカイファーム」という企業を担当し、協業推進させていただいています。

SNACK+は毎回ゲストにベンチャー起業家、社内起業家など事業を作る人を招いて簡単に事業内容を紹介した後、参加者がワークショップ形式でその事業に提案をする流れ。既存事業をしている人たちが、新規事業やそれをする人を理解し、外部の人にも触れることで視野を広げられるコミュニティを目指しています。

「地域を巻き込んでから、社内を説得する」ポッカサッポロフード&ビバレッジの事例

土屋 ポッカサッポロフード&ビバレッジは「飲料水」「カップスープ」「豆乳ヨーグルト」「レモン」の4つの事業で構成されており、僕はレモン事業を担当しています。
3年前くらいに新規事業を扱うビジネスデベロップメント部、いわゆる事業開発部担当となり、今後の会社のことを考えたときに、3つの原動力がありました。ひとつは「存在次元」です。企業としてのビジョン、ミッションは当然ありますが、世の中にとってどういう存在であるべきかという存在意義が希薄だったので、深く考えました。
そこでレモン事業でマーケティングや商品開発をしてきた経験から「国産レモンをコアな事業として育てていきたい」と思い、メーカーとして利益を上げるだけではなく、一緒に市場を作っている生産者、地域にもちゃんと目を向けたいと感じました。
2つめは「成長力と持続力の両軸」です。既存事業を安定的に成長させるのはもちろん、新規事業にも手を入れて行かないと、レモン事業も永続的に成長できないと考えました。

3つめは「かゆいところに手が届く」です。メーカーにいると、古い考え方もあり、新しいビジネス、新しいお客様に提供価値を届けられる方法を頭ではわかっても動けないこともしばしばあります。しかしそれをふまえた「かゆいところに手が届く」営業をしていかないと会社も成長できません。
そこで僕はレモンの生産地である広島に行き、地域と連動してベンチャー企業を作ってしまいました。
今は50Rの畑にレモンの木を180本植えて育てています。
私の戦略として、まず地域を巻き込んで、外堀を埋めて社内を説得したのです。

「新規事業に必要なアイデアをうまく吸い上げ、熱狂的なファンを作る」株式会社bridgeの事例

大長 株式会社bridgeは、組織の中から事業をつくるためのサポートを行っています。僕は専任ですが、メンバーは起業して資金調達していたり、デザイン会社を経営していたりと、みんな経営を実践しているのが特徴です。

事業の軸は3つあり、ひとつめは「新規事業の創出」です。
新規事業、既存事業という枠にこだわらず、想像的な問題解決をしていくことはすべてのビジネスマンに必要。自分がやってみて成功したこと、失敗したことさまざまありますが。失敗したことがだいぶ蓄積できてきているので、それらも踏まえながら、新規事業の構築支援を行います。
2つめは「既存事業の加速」です。DXなど変化に合わせた事業のやり方を一緒に考えていきます。
3つめは「人と組織の変革」。人と組織をどうイノベーティブしていくかを考えながら、さまざまなプロジェクトを行なっています。

仕事の事例として、ファクスの通信事業会社・ネクスウェイさんのケースをご紹介します。こちらの会社はリクルートから分社化されて、今はTISグループ。成長していますが、ファクス自体はいつか終わっていくものなので、新規事業を立ち上げようとしたもののうまくいかなかった経緯がありました。そこで制度やしくみではなく、みんなで力をつけていくための組織能力作りのプロジェクトを提案制度の運営と合わせてお手伝いし、2年目となります。

ダスキンさんの事例では、コロナ禍で暮らしが変化したタイミングで、社内提案制度を活性化したいというご相談をいただきました。そこでモップ宅配事業を「生活調律」というキーワードに置き換えてアイデアを募集したところ、若手から65歳まで訪問販売を担当する2000人くらいの方々から300案ほどのアイデアをいただきました。彼らは新規事業をつくるスキルの経験はなくても、いろいろなお宅に伺っているので、家の中の課題に精通している。そこをうまく吸い上げようと企画したプロジェクトでした。

先にも少しお話ししたMANARAさんの事例では、既存事業の成長ということで、ファンと共に作るコミュニティサイトを構築しました。僕とプロジェクトチームとユーザーとでワークショップを開催し、なぜMANARAさんが好きなのかをヒアリングしながら、コンセプトメイクを担当。MANARAさんはEC通販ですが、ファンと会えることに顧客啓蒙のコアがある。そのためのイベントを企画しながらコミュニティサイトの運営もしています。

今年4月からは社内起業家向けのコミュニティもスタートしました。
いろんな会社の新規事業や組織作りのサポートをする中で、それぞれ悩みは一緒であり、悩むもの同志が集まる場所が必要だと感じました。1企業から1人だけが参加して、成長して会社をやめていくことは避けたいので、1企業から10人集まったらエントリーできるしくみにし、いろんな企業からの10人で双発が起こるようにし、そこで得たものをそれぞれが持ち帰って会社で実践するというものにしています。

成功する社内ベンチャーに不可欠なもの

大長 大手企業は、合理的客観的判断で既存事業を伸ばし続けることで、組織を大きくしています。新規事業ではそこでは判断できないことをやっていくので、起案者自身がそのテーマに対して所有感、当事者意識があることは欠かせません。最初は社内からの協力や理解を得られないことも織り込み済みで、そこ突破すること。そのためには会社を利用して自分がやりたいことをやる、というマインドが欠かせないと思います。

土屋 人に言われてではなく、自分で深く考えた上で、会社でではなくて、世の中にこういう痕跡を残したいなどのモチベーションは必要ですね。実現するには周りのアドバイスも聞かないといけませんから、話を聞きたい人に聞きに行くなど行動力が大事です。その中で、自分の核となるものが崩れるときもありますが、自分なりに消化して方向転換していく根性も必要です。

塚谷 スキルセット、マインドセットが不可欠。スキルセットでいうと、結構重要なのが、言語化力。事業は1人ではなく誰かを巻き込んで協力してもらうことが大事ですが、言語化できないと、振り返りもできないし、どういう状況に今いるのかも周りと共有できません。言語化し、言語化したものをさらにアップデートしていくことも大事です。それがスキルセット。
マインドセットは利他的であること。自分の承認欲求のためにやるのも最初はいいですが、長く続けるなら利他的な目的がないと負けてしまうと思います。

大長 一緒に事業を進めていく仲間選びも大切です。ダスキンさんのケースは手上げ制でしたが、事業アイデアがある人だけではなく、みんなが関わる意味があるので、「サポートしたい」「いったん普段の仕事から離れてみたい」「こういう経験があるから役に立てるかも」などアイデアがない人も含めてチームを集めていくことをやりました。
事業立ち上げ時は、次の半年くらいにどんな実験するかを提言することがひとつめのゲートとなります。ビジネスモデルやそれをやる意味は書きますが、細かい計画はせず、次の半年で何をやってどういう結果が出たらいいかを考えて実行し、結果を出して、中期で成果を積み上げていく心構えを持つといいと思います。

まとめ

社内起業で生じがちな障壁や、それを突破していくための心構え、ヒントなどがわかりました。時代の変化にともない、世の中は新たなニーズにあふれています。新規事業をやってみたい、アイデアがあるという方は、ぜひ一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

登壇者紹介


塚谷一貴
三越伊勢丹ホールディングス

新卒で株式会社伊勢丹(現株式会社三越伊勢丹ホールディングス)に入社。ベビー子供用品、食品領域での職場経験を経て、人事部マネージャーとして人事制度・社内教育の企画・運用に携わる。2019年4月より社会起業家プログラムの制度構築、プログラムの運営をする傍らCVCの担当者としてベンチャー企業との協業推進・出資の業務にも従事。


土屋淳一
ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社

あるときから「食を通じて社会と事業の持続成長の在り方を探る」が個人の興味関心をくすぐるテーマになり、現在は食品メーカーでレモン事業全体を預かっています。商品開発、マーケティング、PR・プロモーション、広島で地域と共に国産の生産振興など、毎日レモンのことばかり考えて、酸っぱいけどちょっと幸せも感じながら活動しています。新たな事業・サービス、「わかりやすくて、面白いこと」を創って行けたら最高です。恵比寿在勤、相模原在住、時々広島。よろしくお願いいたします☆


大長伸行
株式会社bridge

2009年よりデザインファームのコンサルタントとしてデザイン思考を活用した商品・サービス開発、イノベーション人材育成プロジェクトをリード。2017年1月、株式会社bridgeを創業。多様な業種、組織の200を超えるイノベーションプロジェクトを横断し得た数々の失敗経験を形式知化し、企業内新規事業の早出とイノベーション組織づくりを支援する。特技は、後先考えずに安請け合いすること。


GDAとは

約 30 名の経営者、ビジネスマン、事業推進責任者が集まり、専門知識の共有によるオープンディスカッション、他社・団体との協業、社会投資や支援を活動の主軸とする実践的ビジネスコミュニティ。


私たちILY,は、ロゴ制作やビジュアルデザインなどの”見た目のデザイン”にとどまらず、MVV策定や事業・サービスのコンセプト設計などの”コトのデザイン”もご提供しております。お気軽にご相談ください。


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