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春の陽気に浮かれた日

普段は別の場所にいるのだが、月に1回いくかいかないかの頻度で大学に顔を出す。それなりに都会な場所に移ってしまったため、広々としたキャンパスと学生街のお気楽な雰囲気を毎回楽しみにしている。さらに、今回は桜の季節に里帰り (?) である。今年の桜は遅かったので、キャンパス周辺は今が見ごろかなと尚更ウキウキしていた。

最寄りの駅からゆったり歩いてみると、満開は逃しているもののやはり見応えのある咲き様である。着いたのが夜であったため、ビールの350 ml缶を片手に夜桜を満喫した。


翌朝、日が昇ってから再び桜を見ようと散歩に出たところ、なんだかキャンパスの様子がいつもと違う。学生が多い。タラタラと道いっぱいに拡がって歩く奴らも散見され、邪魔なことこの上ない。挙句の果てに、目的地への行き方がおぼつかなくキョロキョロしながら立ち止まったり歩いたりするざまだ。そうか、春は桜の季節でもあるが新入生の季節でもあった。ここ数年はこんな景色を見なかったからすっかり忘れていた。
つい1か月までは高校生だった奴らが浮かれやがって。全く周りが見えておらず、まるで自分を中心に世界が回っているかのように勘違いしている。どうせほとんどの学生は”正しい”勉強などせずに4年間を終え適当に就職していくくせに、何様のつもりだ。

心の中で悪態をついていた時、後ろから自転車が近づいてくる音がした。どうやら数人組のようだ。
「リュックの中なに入れてきた?」
「えっとね―」
自転車勢はあっという間に先へ行き、会話は一瞬しか聞き取れなかった。気付けばもう何年も前のことだ。思えば私もこんな会話をしていたのかもしれない。


4月のキャンパスはふんわりと明るい気がする。それは道沿いの桜が春の日を淡く反射しているからかもしれない。でも今年は何となく、久しぶりに別の理由もあるんじゃないかなと思う。
桜と水仙の香りが混じった風が私の悪態をどこかに吹いて飛ばした。今月くらいは主人公様たちが道を塞いでいても良いのかもしれない。どうやら春の陽気に浮かれているのは新入生だけじゃないようだ。

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