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世界の終わり

2023年12月5日
曇天
寒い昼間、チバユウスケ氏の訃報が流れた。


大学軽音楽部時代、あまり付き合いのない知り合いが学祭のステージでミッシェルをやりたいからバックバンドを集めてくれと言ってきた。こちらは演奏できて歌えれば何でも良かったので了解した。
当日、彼は喉を枯らして歌った。僕らは演奏した。
ステージ終了後、彼は違ったと捨て台詞を吐いて去って行った。
きっと彼は自分が歌うステージにたくさんのお客さんがきて歓声が上がるのを期待していたのだと思う。
しかし、我々軽音楽部は学内で浮いた存在だった。流行も追えないややこしい人間の集団だった。
学内に音楽系のサークルは他にもあった。ポップス研究会だの、アコースティックギター部だのもっと人気のあるサークルがあった。
彼がなぜ我々を選んだのか、今はもう知る由もないけれど、僕が思うに単純にツテがなかったのではないかと思う。
だって我々は近寄り難いめんどくさい輩の集団でしかなかったのだもの。近寄ってこれる人は最初から少ないサークルだったのだもの。
もう名前も顔も思い出せない彼はチバユウスケ氏の訃報を聞いて何を思っているのだろう。一生懸命バードメンを、ギアブルースを、ゲットアップルーシーを歌ったことを覚えているだろうか。覚えているだろうな。流行りの曲を歌いたいってタイプではなかったし、自分がカッコいいと思うものを歌った結果、誰も反応しなかったと怒って去って行ったんだもの。


青い春という松本大洋の漫画が実写映画化されている。
その映画のテーマソングになっていたのがTMGEのドロップ。
どうにもならない、どうにもできない高校生たちのお話。
ただぶらぶらと、じりじりと過ごしていくしかない高校生たちのお話。
その映画の中で主人公に憧れていたもう一人の主人公が言う。

「なあ、連れて行ってくれよ」

多くの人がチバユウスケ氏に同じ思いをかけていたのじゃないかな。

訃報によせて。

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