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【海外事例紹介】テレワーク × 地方創生 アイルランド編国内400か所のテレワーク拠点で、人の流れを地方へ

※本記事は2023年2月に執筆し、株式会社イマクリエの会社ホームページに掲載していた記事をnoteに移管しています。

今回は、海外の地方創生事例の中から、テレワークを原動力に地方への人の流れ作り出す施策を進めているアイルランドの取り組みをご紹介します。
日本と同じ島国であるアイルランドですが、都市部への人口の一極集中、地方の人口減少、地方人口の高齢化といった社会課題を抱えている点も日本と共通しています。


アイルランドの地方創生戦略「Our Rural Future(私たちの地方の未来)」

アイルランド政府は2021年3月に、国全体の経済・社会・文化・環境福祉において地方の発展が必要不可欠であるとの考えから、新たな地方創生戦略「私たちの地方の未来」を発表しました。
このプロジェクトの一番の目玉は、コロナ禍で広く定着した新しい働き方であるテレワークを活用した取り組みです。

アイルランドの人口は513万人、そのうちの約4割に当たる210万人が、ダブリン都市圏(首都のダブリンとその周辺地域を合わせた地域)に暮らしています。地方と都市部の分断は、これまで長きに渡りアイルランドの政治上の大きな課題の一つに上げられてきました。

都心部から地方への人・仕事の流れを生み出すことを目的に、2021年から2025年までの5年間の計画で、アイルランド国内では現在、テレワークの更なる促進の取り組みが急ピッチで進められています。

公務員60,000人を首都から地方へ

アイルランド政府は過去に、いくつかの政府機関を首都ダブリンから他の地域へ移転し、数千人の公務員を地方に移す施策を実行したことがあります。

今回「私たちの地方の未来」プログラムでは、新たに公務員の20%にあたる約60,000人を2021年中にオフィス勤務からテレワーク勤務に移行することで、彼らの地方への移住を推進しました。この人数は、毎年段階的に増やしていくことが計画されており、政府自らがテレワークを活用して、首都から地方への人の流れを生み出していくことを体現していく格好です。

国内400か所以上のテレワーク拠点の構築

「私たちの地方の未来」プロジェクトの元では、27億ユーロ(約3,800億円)の予算を投じて、アイルランド国内全域に高速ブロードバンドが整備されます。

同時に、地方で空き物件となっている映画館、劇場、オフィスなどの施設を改造して、コワーキングスペースやフリーアドレスのシェアワークスペースといった「テレワーク拠点施設」を作る計画が進められています。
テレワーク拠点施設の数は、2022年11月末時点ですでに全国で300か所に達し、デスクの数にすると10,000席のフリーアドレスのテレワークデスクが存在しています。

また、これらの施設を最大限有効活用してもらうために、アイルランド国内のすべてのテレワーク拠点の検索と予約を行うことができるオンラインのプラットフォーム「コネクテッド・ハブ」が作られ、2022年12月時点で、コネクテッド・ハブのサイト利用登録者は10,000人に上っています。

コネクテッド・ハブ:https://connectedhubs.ie/

アイルランドは実は知られざるIT立国で、GAFAMのようなアメリカ系企業が多く拠点を置いています。またイギリスのEU離脱(Brexit)以降、イギリスからアイルランドに拠点を移したIT系企業も少なくありません。
今後は、これらの企業で働くエンジニアたちが、ハイスピードインターネットのメリットを享受して、地方からテレワークで働くケースも想定されます。

2022年には、各地方にテレワーカーを呼び込むためのプロモーション費用として、一地方自治体当たり50,000ユーロ(約700万円)の予算分配が決まりました。これから各地方自治体は、この予算を使って、アイルランドの地方に住みながら、あるいは滞在しながら、ダブリンのような都市部や海外にある会社の仕事をテレワークでできることをアピールしていくことになります。

これは筆者の私見ですが、アイルランドは欧州経済領域(European Economic Area、略称:EEA)参加国なので、テレワークに最適な環境整備が進むことで、他のEEA参加国(26ヵ国)からのテレワーカーの移住も期待できるのではないかと思います。(EEA参加国の国民は、特別なビザを取得せずに他の参加国で働くことができます。)

また、ハイスピードインターネットが全国に網羅され、全国至る所にテレワーク拠点があることで、移住とまではいかなくても、外国人ノマドワーカーの短期的な滞在やワーケーションの目的地として、アイルランドが選ばれる可能性が今後高まっていくのではないでしょうか。アイルランドが、ヨーロッパの中では数少ない英語を公用語とする国であることも有利に働くと思われます。

アイルランドの地方に新設されたこれらのテレワーク拠点が、どれだけのテレワーカーを実際に地方に呼び込んでいくのか、今後の経過を見ていきたいと思います。

テレワークに関する法整備の状況

アイルランド政府の目指すテレワーカーの地方への移動を実現させるためには、都市部にある会社で働く社員たちが、テレワークでどこからでも働ける状態を担保していることが不可欠です。

アイルランドでは、2022年11月に労働者がテレワークを求める権利の法制化準備に入りました。法制化が確定すると、雇用主は従業員がテレワークを希望した場合に、従業員の個人的な状況をよく考慮したうえで、テレワークの実施可否を決定しなければならなくなります。また、テレワークの要望に対して雇用主が十分な検討を行わずに不当に拒否した場合には、従業員は最大4週間分の給与を雇用主に求めることが可能になります。

地方でのデジタル教育

「私たちの地方の未来」プロジェクトでは、アイルランド全土に広がる高速ブロードバンドの恩恵を最大限に活用するため、デジタルを活用した教育の計画も進められています。

一つは、地方に住む若者が、地方にいながら高等教育を受けることができるようにするオンライン教育の拡充です。

また、年齢に関わらず誰もが生活の中でデジタルを活用できるようにするために、成人向けのデジタルリテラシー教育が提供されたり、労働者向けにIT領域のリスキリング教育の実施計画も進められています

まとめ

アイルランドの地方創生施策「私たちの地方の未来」は5か年計画の折り返し地点にあります。まだ道半ばのため、取り組みの成果が具体的に見えてくるのはもう少し先になりそうです。

しかしながら、日本と同じ課題を抱えている他国の取り組みを知ることは、地方におけるDX化、テレワーカーの移住者誘致を考えるうえで参考になると思います。アイルランドの「私たちの地方の未来」の行く先をこれからも注視していきたいと思います。

https://www.imacrea.co.jp/corporate/tw_diagnosis/

出典