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熟成の極みに達した日本酒は日本料理に合うのか?

IMADEYA 安藤のペアリングレポート


一般社団法人・刻SAKE協会が予約困難店の末富にて「黒龍」×「木戸泉」のペアリングディナーを開催。

刻SAKE協会とは
「古酒熟成酒に日本酒の未来を描く日本酒蔵元が集まり、一般社団法人「刻(とき)SAKE協会」を設立。世界に誇れる日本酒を価値化していくため、時間軸を用い高付加価値の基準つくり、ブランド化を目指す協会。既存の流通体制や価格帯を見直し、新たな市場開拓へ活動を行う。設立メンバーは月の桂、黒龍、出羽桜、東力士、南部美人、木戸泉、水芭蕉」

会場となったのは、メディアの登場も控え、料理の写真は基本NG、予約困難店、日本料理「末冨」。

この店をセレクションしたのは黒龍の水野社長
「味わったことのないスペシャルな古酒・熟成酒の世界を体験する場ならば料理も同様に普段体験のできない場所に」。

今回登場した2つの酒蔵は対極にある酒を手掛ける。黒龍酒造は、高精米の氷温熟成が基本。木戸泉酒造は低精米の常温熟成。それらの熟成酒が日本の冬を代表する蟹、ふぐ、すっぽんに、どのように合うのか。

合計 11 種類の日本酒とのペアリングを以下に書き記す。

当日のラインナップ

料理前半

香箱蟹 飯蒸 ×黒龍酒造 ESHIKOTO AWA 2020 Extra Sweet

テイスティングコメント
黒龍酒造 ESHIKOTO AWA 2020 Extra Sweet
香りは柔らかく穏やか、ほのかに柑橘のニュアンス。アタックはクリーミーでキメ細かい泡、柔らかな甘味が広がる、中間は酸の輪郭があり、後口はミネラリーで柔らかな甘味。ふわっと柔らかな余韻、ドゥミセックぐらいの糖度。

ペアリングコメント
柚子をかけた香箱蟹の脚の下に外子を絡めた飯蒸。内子やミソを一度に楽しめる。蟹の甘味に泡の甘味の相乗効果、合わせると香りが増幅して、甘味が広がる。内子の複雑さと味噌の苦味をお酒お甘味が持ち上げる素晴らしい相性。香りのある柚子と発泡酒の相性は良く、爽やかな香りを持ち上げる。

すっぽんのスープ 焼き白子 茶碗蒸し × 木戸泉酒造 AFS(アフス)twelv.2018

テイスティングコメント
木戸泉酒造 AFS twelv.2018
爽やかで、酸の高さの予感がはっきりと香りから感じられる。
アタックは香ばしくノイジーなニュアンスがあるが、爽やかな酸(酸度10)と旨みが両立している。中間は滑らかで後口まで旨味、酸味が持続する。

ペアリングコメント
柔らかな茶碗蒸しの中に焼いた香ばしい白子が隠れている。上はすっぽん出汁の餡。滑らかな質感にすっぽん出汁の特徴、口内に幕を張る旨み、コラーゲン。白子の濃厚濃密まろやかな味わいでまったりとしすぎるぐらいの余韻だが、このまったりとし過ぎる覆った膜をお酒の酸が貫いて味わいに抑揚を生み出す。この組合せはとても面白く印象に残った。面×面ではなく面×点の相性。

松葉蟹しんじょうのお椀 × 黒龍しずく 2021

テイスティングコメント
黒龍 しずく2021
香り透明感があり穏やか、適熟のメロン。アタックはピュアで滑らか、中間は柔らかなテクスチャーで繋がり、後口はまろやかながらもピシッと芯のあるミネラル感でフィニッシュ。

もともと「しずく」 は越前蟹に合わせるテーマで造ったお酒。蟹の繊細な甘さを活かすため無加圧で搾ったのが始まり。水野社長曰く「蟹はとても繊細な甘味なのでその繊細さを活かすお酒を合わせないといけない。しずくはあえて硬く仕上げていて、熟成して伸びるように設計している。抜栓してから1週間かけて飲むようにゆっくり飲んで欲しい。そして温度は15度が理想」

ペアリングコメント
お椀自体、非常に濃厚な昆布出汁がベースとなっている。上質だがとても力強く、味わいは滑らかで余韻も長い。松葉蟹の繊細な甘味にしずくのピュアさがリンクする。またお互いの質感・テクスチャーがリンクし、アフターの力強い余韻がお酒のキレで中和される。お椀に対して合わせられる日本酒は少ないが、今回はとても良い相性だった。強い昆布出汁の場合は引き算系の日本酒でも◎

料理中盤

河豚のお刺身 あん肝ポン酢、ナマコ、このわた × 黒龍 石田屋 2021 および 木戸泉 自然米山田錦 2019

テイスティングコメント
黒龍石田屋2021
あらばしりと責めから熟成させて選抜するのが石田屋。香りは穏やかで美しい。メロンの薄皮、品がある。アタックは滑らかさと軽やかさの両立、滑らかでふくらみのある甘味、中間は練れて丸く口内に幕を張る。後口は滑らかで丸い余韻。しずくと違いキレがないのが特徴。

木戸泉 自然米山田錦 2019
香りワイルド、バニラ、熟成、熟成に支配されていないのが不思議。アタックは滑らかで質感柔らかく旨味がある。中間は凝縮感のある旨味があり太い、後口は苦味や収斂性のある太いアフター。

ペアリングコメント
両極端の2本を合わせたが、それぞれ用途が異なる。
石田屋はふぐの繊細な甘味に調和して引き出す。
木戸泉はぶつかっていく。
ふぐを塩やポン酢で食べるなら断然石田屋だがあん肝ポン酢につけて食べるなら断然木戸泉。またナマコのこのわた和えも風味が強いため木戸泉が◎

このケースであん肝ポン酢に石田屋を合わせるとお酒の繊細さが消えてしまうが、近づけるならお酒とリンクする風味で、振り柚子が良い。

海老芋の煮物 × 黒龍 無二 2017 および 無二 2012

テイスティングコメント
黒龍 無二 2017
低温熟成の究極を目指したお酒。
香り柔らかく芳醇で複雑、和梨のようなニュアンスもある。アタックは滑らかで輪郭は柔らかくとろけて舌に纏う。中間も丸く、ゆっくりと下に沈んでいくような味わい。角が無く、奥行きのある味わいは昆布出汁をイメージした。

黒龍 無二 2012
香り枯れ草、キノコなど湿ったニュアンス。アタックは滑らかでとろける、分子が融合している。とろりと滑らかな液体が余韻まで流れていくが、最後ミネラリーなフィニッシュで終わる。

ペアリングコメント
海老芋のキメの細かい滑らかな質感、出汁の旨味をまとった滑らかな旨味が余韻まで持続する。2017年はお酒の余韻が若干だけ強い。2012年を合わせるとお酒は溶けて出汁の風味が上がる。

料理後半

河豚の唐揚げ × 木戸泉 古今 30 年熟成

テイスティングコメント
木戸泉 古今30年熟成
香りは火打ち石的、硫黄、熟成由来でチョコなど複雑な香り。アタックは滑らかで柔らかく味わいが溶けこんでいるがボディは太い。中間はふくよかで力強い、コーヒーやカカオ比率の高いチョコ的なビターさ、アフターは強く、長く伸びていく。30年熟成のブレンドで6,500円上代はとても手頃なのでは?

ペアリングコメント
淡白な河豚に厚みを加える唐揚げ。揚げることにより生まれるメイラード反応の香ばしさと、熟成由来のメイラード反応のキャラメルのような香ばしい甘さが調和。河豚の唐揚げはザクっと香ばしくジューシー。力強い木戸泉と相性が良く、味の強さは両者対立するが余韻は河豚が強い。日本料理屋の揚げ物の提案に◎

焼きすっぽん × 木戸泉 AFS(アフス) Ensemble 2004 & 2008

テイスティングコメント
木戸泉 AFS Ensemble 2004 & 2008
香りは杏やドライフルーツ的な甘味と酸味を連想させる。アタックは滑らかで甘酸が両立し凛とした味わい。中間は滑らかな旨味と酸の強さに由来する輪郭があり後口は酸の爽やかなフィニッシュ、甘味は持続する。

ペアリングコメント
末冨の名物の一つ、焼きすっぽん。濃く抽出したすっぽんスープに酒、醤油を合わせたタレを塗り重ねた炭火焼き。香ばしい香りにすっぽんのねっとり濃厚な旨味が長く余韻に残る。今回のペアリングで学んだのは、すっぽんのまったりと膜を貼るような味わいに対して、酸度の高さは有効だ、ということ。

松葉蟹 しゃぶしゃぶ × 黒龍 吟風 2017

テイスティングコメント
黒龍 吟風 2017
香り穏やかでメロンなど甘やかな印象。アタックは甘味あるが全体的に細身でタイトな印象。滑らかながらも中心に硬い芯がピシッとある。中間はミネラル感伴う苦味、後口は甘口があり、余韻は甘味と苦味の両輪が持続。

ペアリングコメント
味わいがはっきりとした出汁で松葉蟹をしゃぶしゃぶにすることで蟹の繊細な甘味を引き立たせる。蟹の甘味の繊細さがよくわかる。軽やかでウルトラピュアな甘味。お酒の練れた質感は調和し、余韻の甘味もリンクする。

みかんのゼリー × 木戸泉 AFS(アフス) Stratae 2019 貴醸酒

テイスティングコメント
木戸泉 ストラータ 2019
香り甘味と酸味のある、柑橘的な印象。アタックは滑らかな甘味があり、紅茶的な香ばしさをまとう。まさに柑橘類のような甘味と酸味があり、柑橘デザートへの提案にはもってこいの味わい。

ペアリングコメント
みかんの皮の中に入った果汁たっぷりのゼリー。 みずみずしく爽やかな甘味と酸味。ストラータの甘酸っぱさと調和する。甘口ワインの最高峰イケムを柑橘のデザートに合わせているミシュラン日本料理店があるが、日本でしか出来ない付加価値を創るならこの組合せを推したい。

素晴らしい個性的なラインナップ

エイジングの可能性

今回末富様の素晴らしい調理技術で冬の味覚の数々と黒龍・木戸泉という両極にある日本酒蔵のエイジング酒をペアリングで体感する機会を得た。

改めて感じたのは「熟成させないと合わない料理がある」ということ。

お椀の滑らかさに対して熟成由来の滑らかさを重ねたり、河豚の唐揚げの揚げられた香ばしさに対して熟成由来のメイラード反応の香ばしさで掛け算的に合わせていく方法は日本酒の領域ではまだまだ少ない。

キレのあるお酒で引き算することは簡単だが、料理全体の構成を見て抑揚をつける時、キレのある味わいや酸の爽やかさがマイナス方向とすれば、プラス方向の強い旨味、ハイアルコールのお酒は料理を打ち消してしまうケースが多い。しかし熟成に由来する複雑さを持つお酒の場合はプラス方向ながらも料理を打ち消さない。

ワインでは当たり前に取り入れている熟成の概念、多種多様なご飲食店様をパートナーに持つIMADEYAだからこそエイジング高付加価値マーケットの創造が可能になる。次世代に繋ぐ一手として今後も取り組んでいきたい。

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