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触れて、感じるデザインを。前編 shiwa glass制作ストーリー 株式会社キューイ

シワをテーマにした「SHIWA LAB」プロジェクトの第一弾商品として、今回リリースされたshiwa glass。生きている象の美しいシワを型取ることで、象の触り心地を楽しめるグラスだ。その企画制作をしている株式会社キューイのお二人に、shiwa glassの制作ストーリー、そしてキューイとしての今後の展望を伺った。

株式会社キューイ
アートディレクターの星毅さんと特殊造形アーティストの浅海 雅俊さんの二人から生まれたチーム。キューイ(Q.I)という会社名は「QualityとIdeaで笑顔を作りたい」という想いから名付けた。

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生きている象のシワを型取り、正確に磁器に再現したshiwa glass。特殊造形アーティストの浅海さんとアートディレクターの星さんが制作した。

無人島の暮らしで気づいた
「生かされている」という感覚。

───今回、シワをテーマにした「SHIWA LAB」のプロジェクトの第一弾商品として、shiwa glassを制作した経緯を教えてください。

浅海
:ハリウッド映画の制作に携わることを目指して、17歳で特殊メイクの会社に弟子入りしました。そこで鍛錬を積んでいましたね。そんな中、20歳の時に水中眼鏡とナイフだけを持って、無人島に1週間住んでいたことがあります。その島を管轄をしている自治体に、問い合わせた上で向かいました。

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特殊造形、特殊メイクのプロフェッショナルであり、取締役の浅海さん。

────無人島に?

浅海
:日々の激務に疲れていたんですよね。頭を空っぽにしたくて、無人島に行きたいと思い行動しました。ですが、実際暮らしてみると、想像以上に食糧を得ることが難しく、食べていけなかった。

滞在中に、猪と真正面で対決したことがありました。その時、僕は薪を集めてたんですけど、結構ヘロヘロな状態だったんです。ほとんど食べることができていなかったですからね。急に、「ブヒブヒ」と音が聞こえたと思ったら、崖から猪が落ちてきたんですよ。大きな猪が目の前に現れました。ものすごく疲れていたこともあり、「もう襲われてもいい」と思ったんです。それで、薪を放り投げました。「かかってこい!」と。そしたら、その薪の落ちる音で、猪がびっくりして逃げていきました。あの時は、本当に絶体絶命でしたね。

────すごいですね。

浅海:結局、その後も食料をうまく確保できずに、健康状態がギリギリな状態で帰ってきたのです。そこで、気づいたことがありました。普段、私たちが便利な生活をしている裏で、様々な膿みがどこかで生まれているのではないか、ということです。

例えば、私たちが日々消費をしている日用品や、食料品。これらの多くにはパーム油が使われており、熱帯地域でしか栽培することができません。このパーム油を生産するために、インドネシアでは畑がどんどん増え、象の住む場所がなくなっています。それだけではなく熱帯林が減少するなど、様々な問題が引き起こされております。そういった情報って、色々と本を読んでいて、なんとなくは知っていたのですが、それまでは他人事だったんですよね。それが無人島の不自由な暮らしを通して、私たちの生活の裏のいろんなところで、何かが死んでいるんだな、と実感したんです。

そこからハリウッド映画に携わりたいという気持ちに、変化が生まれてきました。自分がやっていることは、地球のためになっているんだろうか、という疑問が湧いてきたのです。もちろんエンターティメントは、人々の心を豊かにしてくれます。ですが、もっと直接的に人のために、地球のためになっている、と実感できるものづくりをしたいと思った。「生かされているんだ」ということを自然と感じられるものづくりがしたいな、と。それが今回のshiwa glassのアイディアの素になりました。

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デザインを通して、
人に大切なことを体感してほしい。

──── 星さんはデザイナーとして、どのようなキャリアを歩まれてきたのですか。

:僕は小さい頃から、よく絵を描いていました。人に見せて喜ばせたり、驚かせたりすることが好きでした。絵を描く時は、描く対象のことをよく考えて、伝えたいことを整理してシンプルにします。そこから磨き上げて、もっと面白くする。そのようにして相手の想像を超えられれば、感動をつくれる、それが気持ちいい。幼い頃から感じていた絵を描く楽しさは、デザインの本質と一致していました。なのでデザインの世界に入ったことは、とても自然なことでした。

デザイナーとしてプロになり、中央区にあるデザイン会社に11年勤めました。大企業の広告やパッケージの仕事を手掛けていく中で、様々なことを学んできました。それと並行して、街に根差したお店と仲良くなって、機会があればデザインに関わってきました。反響がとてもダイレクトに返ってくるので、とても新鮮に感じ、面白い。制作したデザインを起点にブランドやお店、街が育っていく姿を目の前で見ると、デザイナー冥利に尽きます。そういったことを続けているうちに、様々な人と繋がっていきました。その中の一人が、浅海です。浅海は、大自然からいろんな学びを得て来ましたが、僕は、人や街との繋がりの中で価値観を作ってきたことが、対照的かもしれません。

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アートディレクターで代表取締役社長の星さん。

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品川区中延に構えるキューイのオフィスの近所にある
定食バル「フウライボウ」。こちらのロゴは星さんがデザインをした。

「シワ」というテーマ性が、二人を結びつけた。

────星さんと浅海さんは、どのようにして出会ったのですか。

浅海:無人島から帰ってきて6年ほど経った後、会社を退職しました。その後はフリーランスとして必死に仕事をこなしていましたね。1年ほど経って落ち着いてきた時に、ずっと前からやりたかったことをやらなきゃな、と考え始めました。当時、 BARでよく一人で考えていましたね。その時には、すでに「シワ」で何かをしたいという想いがありました。

:そのBARで、僕と浅海は出会ったんですよ。ものづくりへの愛がすごく強い人がいるなと思いましたね。分野が違うからこそ新鮮で、会うたびにお互いの仕事や、いろんな制作のアイディアを肴に話し込んでいました。ある時、「シワで何か作りたい」というアイディアを話してくれて。どうやったら面白くなるだろうか、と雑談をしていました。グラスにしたらいいんじゃないか、という話もそこで出てきたアイディアでした。

そのまま、一緒にやってみようと意気投合したんです。「シワをどうにかしたい」と浅海さんの話を聞いて、いてもたってもいられなかった。何かクリエイティブなテーマがあると、答えを出したくなってしまうデザイナー心に、火が付いてしまったのです。

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浅海:懐かしいですね。星と話していて、すごくアドレナリンが出たんです。グラスは手で触って、飲む時に唇でも感じられるし、これはいいと思いました。このテクスチャーを最大限、感じとることのできる形状を、星と検討したんです。そのために、陶芸家さんに半ば弟子入りのような形で勉強を始めたり、型取りをしてくれる動物園を探し出したりしました。始めてから、型取りをするまで半年くらいかかりましたね。

:喋りながら、どこまで熱量出していいか探っていましたね。普通は引かれちゃうんで…。何回か話す中でお互い素でいいんだと分かったんです。楽しい、ワクワクする気持ちになったことを、よく覚えています。

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後編へ続く。

聞き手・文:大島 有貴
写真:唐 瑞鸿(MSPG studio)


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