見出し画像

『攻殻機動隊』が好きなんです。


『攻殻機動隊』と一口に言っても、その種類は漫画、テレビアニメ、映画からパチンコやパチスロまでと多岐にわたる。現在ではファンにとって聖典ともいうべき士郎正宗原作の漫画版から派生し、完全オリジナルの巨大メディアミックスコンテンツとしての地位を確立している。最新作のアニメシリーズはNetflixで全世界独占配信されているということからも、国内外問わずその人気が伺えるであろう。

画像1

 記念すべき初の映像化作品である押井守監督の劇場版『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』が公開されたのは今から遡ること26年前の1995年だ。この押井守版がなければ現在の攻殻機動隊シリーズは存在しえないことになる。いわば、全ての映像化シリーズが立ち返るべき故郷とも言える作品がこの押井守版の攻殻機動隊なのである。
 この映画版で押井守は、原作ではどこかポップでコミカルな印象もあった『攻殻機動隊』という作品の雰囲気をガラリと変えてしまった。人間が人間であるための所以をシリアスで難解な演出やセリフを交えつつ、観客に問いかけてきた。もともとこうしたSFチックな作品と押井守は非常に相性が良かった。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』然り、『機動警察パトレイバー』シリーズ然りである。そしてそれまでの集大成とも呼べる作品が『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』だったのである。

 しかし、この段階では評価の高さとは裏腹に攻殻機動隊という作品の一般的な知名度はそれほどまでに高くはなかった。その名を広く知らしめたのが、2002年から2005年にかけてテレビ放送された神山健治監督による『攻殻機動隊 STAND ALONE CONPLEX』(以下、S.A.C.)と続編の『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』(以下、GIG)だろう。S.A.C.シリーズでは“もし草薙素子が人形使いと出会わなかったら”という、一種のパラレルワールドとして展開している。
 また、2004年には『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の続編である押井守監督作品『イノセンス』が第57回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された。日本のアニメ作品がコンペ部門に選出されるのは史上初の快挙であり、こうした話題性のあるニュースも知名度アップに一役買っていることは間違いない。
 そして何よりも、テレビ版シリーズの出来が非常に良かった。押井守が作ったキャラクターのイメージを残しつつも、テレビ版では少しポップで柔らかくなっている。ストーリーも非常に作り込まれており、メイン以外のサブエピソードでは公安9課メンバーの掘り下げや名作映画のオマージュなど、遊び心も満載である。
 テレビアニメが終了した一年後の2006年にはS.A.C.シリーズ初の長編作品でもある『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』(以下、SSS)が放送されている。それまでS.A.C.シリーズでは押井守版のパラレルワールドとして展開されていたが、SSSでは素子が公安9課を離れて独自に行動しているというS.A.C.シリーズと押井守版の統合ともとれるような展開を見せてきた。ある意味で1995年の劇場版から脈絡と続いてきた映像メディアでの攻殻機動隊という一大コンテンツがここで一つの大団円を迎えたのである。

 ここから攻殻機動隊はしばしの沈黙期間に入ることになる。2011年にSSSの3D劇場版などが公開されたりはしたが、完全新作などの情報は長らく聞こえてこなかった。
 その沈黙を破ったのが2013年から2014年にかけて4部構成で劇場公開された『攻殻機動隊 ARISE』(以下、ARISE)である。「第四の攻殻」とされる本作ではそれまでのシリーズであまり語られてこなかった公安9課設立に至るまでの経緯を描くとして非常に注目度も高かった。同時に、キャラクターデザインの変更やキャストの刷新などによってネガティブな意見も目立っていた。個人的にはこのARISEシリーズがリアルタイムで観た初めての攻殻機動隊だったこともあり、思い入れは強いし内容や過去作からの変更点に関しても肯定的に捉えている。
 「第四の攻殻」と呼ばれているようにARISEは原作、押井守版、S.A.C.ともそれぞれニュアンスが違っている。より草薙素子というキャラクターの解釈を深く掘り下げていくうえで、ARISEという作品は必要不可欠なのではないかと感じている。それまでどこか完璧超人のようでもあった草薙素子という人物に、初めて親近感を覚えたのがこのARISEシリーズだった。
 そして2015年には劇場版をテレビ用に再構成したものが放送され、同年には『攻殻機動隊 新劇場版』(以下、新劇場版)も公開された。攻殻機動隊25周年記念として制作された本作は、いわば国内展開における一つの到達点と言ってもいいだろう。ストーリーとしてもここから押井守版の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』に、もしくはS.A.C.に繋がっていくという意味でも丸く収まった形になった。

画像2

 新劇場版を観終わったとき、もう今後はこれほど大規模に攻殻機動隊の新作コンテンツが作られることはないのかもしれないと覚悟をした。これ以上、草薙素子というキャラクターを使って攻殻機動隊というコンテンツを深堀りしていくことが可能なのだろうかという疑問があったからである。30周年に単発的な新規エピソードや過去作のリマスター公開がある程度だろうと思っていたところへまさかの『攻殻機動隊 SAC_2045』(以下、SAC_2045)である。聞けばNetflix全世界独占配信だというではないか。(※実写映画の『ゴースト・イン・ザ・シェル』のことはここでは触れない)
 SAC_2045はS.A.C.シリーズを手掛けた神山健治と、士郎正宗原作で攻殻機動隊と世界観を共有する『APPLESEED』の映画を手掛けた荒巻伸志がダブル監督で制作、初のフル3DCGアニメーションが採用されている。この3DCGと草薙素子のキャラクターデザインが非常に賛否を呼んだ。個人的には初めてキービジュアルを見たとき、押井守版やS.A.C.よりもARISEに近いデザインだと感じた。幼く柔らかい、どこか少女的な印象を受けた。
 実際に配信日に視聴してみたが、やはり3DCGというのは最初の数分程度は違和感があった。しかし、派手なアクションに気を取られているうちにだんだんとそれも消えていた。ストーリーも現代風にアップデートされており、全体的に“今風”に仕上がっているなと感じた。攻殻機動隊シリーズの上手いところは、それぞれの時代での社会問題を取り入れてしっかりと“今風”にアップデートしていっているところだ。近未来が舞台のサイバーパンクで致命的なのが“近未来なのに古臭く見える”ことである。攻殻機動隊はもともとのSFサイバーパンクという設定に頼りすぎず、しっかりとそういった現代社会の背景や問題点を取り入れることでそうした問題を回避してきた。SAC_2045でも“サスティナブル”という現代的なキーワードを物語に組み込んでいる。
 SAC_2045はシーズン1を新たなシーンを加えて再構成した劇場版が2021年に公開されることも決定している。シーズン2以降も順次Netflixで配信されていくだろう。Netflixという新時代コンテンツで展開されていく今後のSAC_2045シリーズには非常に期待が持てる。

画像3

 そして最後にまさかのこのコロナ禍で『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』が4KリマスターIMAXで日米同時公開されるというのだ。ここにきて押井守版が劇場で蘇る、しかもアメリカでも公開されるというのは予想もしてなかった。歓喜、感涙、雨あられである。Netflixでの展開がなければこういったサプライズはなかっただろう。(※実写版の影響は加味しないものとする)
 過去と現在が同時進行で相乗効果を生み、世界規模でコンテンツが盛り上がっていくことはファンとしては非常に喜ばしい。個人的にはここまでしてくれるなら『イノセンス』のリマスター上映にも大いに期待したいところである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?