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切り口満載のベトナム映画法改正案議論から考える、ベトナム映画の現状と未来

今回は現在開会中のベトナム国会における審議内容から。普通、法案審議というのは時事ネタですが、そこまで世論やメディアの耳目を集めるものではありません。ただ今回は「映画」という市民の娯楽でもある芸術がテーマであり、またそこには政治的なテーマがありつつもエンタメ性も高いため、ベトナムメディアでも国会議員の発言をかなり細かく伝えています。

今回はかなりこれまでのツイート寄せ集め感もありますが、この映画法改正案を巡る議論から見えてくるベトナム、そしてベトナム映画について書いてみようと思います。

表現の自由を巡って

まずは映画という表現分野での、硬派なこの切り口。ご存知の方も多いと思いますが、ベトナムはそのソフトな見かけからはわからない、言論・表現の自由に関しては管理の厳しい国でもあります。そもそも、もし自由であれば「映画法」を作ってそれを管理・監督するという思想は生まれませんよね。(ちなみに「映画法」という言葉をググると、そこで日本の文脈として出てくるのは戦前昭和14年に作られた映画法です。)そこでベトナムの映画人は色々苦労しています。

ベトナムでは映画の審査は厳しく、少しでも「センシティブな」シーンがあるとすぐ年齢制限、或いは同場面のカットが求められてしまいます。日本人として衝撃的なのは「クレヨンしんちゃん」が13歳以下では観られないこと。在越邦人の生活課題としては、小学生の子供が「ベトナムでも上映だって!」と情報だけ得て、実際には観られないのでガッカリするというのが悩ましい問題です。

ただ表現者にしてみれば、一方そういったセンシティブなシーンであればあるほど、作品中で重要な役割を果たします(と、クレヨンしんちゃんの下に書くと少しアレですがw)。それをどこまで許容するかということも、この映画法改正案で議論の的となっています。

社会の風紀を乱す映画はイケません!?

加えて、上記表現の自由にも深く関係しますが、「どういう映画が好ましいか、好ましくないか」と映画の内容に踏み込む議論も、今回法改正を巡って多く出て来ています。

そこには政府として、党として、「人々を良い社会に導く」と道徳にまで入り込もうとする意欲も見え隠れし、現在中国で進んでいる共産党の文化・芸能への関与の深化にも似たものを感じます。

「国威発揚」映画振興を目指して!?

そういった「取り締まる」という側面の一方、ベトナム国産映画がどうもイケてないのではないかという切り口での議論も多く観られます。国会議員(の世代の人)には、特に若者が外国映画(ドラマ)ばかり観ている、ひいては自国について、特に自国の歴史についてわかっていないと嘆くような発言が相次いでいます。

ただ娯楽系の映画では最近ベトナム映画のヒット作も出てきて(例えばこちらなど)おり、状況は改善傾向なのかなと思います。一番問題なのはいわゆる「国策映画」のようです。ベトナムの歴史・革命の偉業を伝えると言った映画は定期的にやっていますが、興行的にヒットしたようなものは寡聞にして存じません。

まあ国策映画というものは元々PR色が強くて、一般的な大ヒットには繋がらないだろうなあとは思います。ただお隣中国ではそういった国策映画でも、そこにかける莫大な予算とスケールもあって、ヒット作が続いているのをベトナム共産党も見ているはず。「なぜうちでも、ああいうやつできんのかね!」とリーダーが地団駄を踏んでいるのは何となく想像できます。

ベトナム映画が目指す道は

そんな風に映画法改正案の話題が出てくるので気になってみていると、ある日の関連記事では「国家主席:韓国には20年前にもう「ガラスの靴」や「チャングムの誓い」があったぞ」というタイトル。「フック国家主席も韓流好きなのかなあ?」と思ったら、要は今回法改正の背景として、そういった韓国のソフトパワーにばかりベトナムのお茶の間が占拠されていてはイカンと言う発言でした。

正直それほど詳しいわけではありませんが、ベトナム映画も面白いものが増えているなあと感じています。娯楽映画が勿論多いですが、なかなかにテーマ性のある映画もあり、ポテンシャルはかなりあるかと。以下note記事紹介した映画なんかも、単にテーマ性だけでなく楽しめる良い作品でした。

それに歴史物でもベトナム史には掘り起こせば色々題材はあるはず。以下のように、特に資金面などと周りのライバルとの関係で簡単では無いはずですが、日本人や周辺アジア諸国を魅了するようなストーリーを描ける脚本家(とそれに投資する資金)が待たれるところです。それがベトナムのソフトパワーに繋がれば、観光業など違うセクターにも効果が波及するでしょう。

個人的にも、よりハマれる映画・ドラマがあれば、自身のベトナム語力の更なる向上にも活きるはず!と思っています。法改正でそれが成されるかというと「?」とは思いますが、それとは別にしても更なるベトナム映画(ドラマ)のヒット作を楽しみにしているところです。

ちなみに法改正案はまだまだ審議中、今期国会での審議を経て2022年5-6月の会期にて通過させる予定とのこと。まだまだ更なる論点が出てくるのか、注目してみていきたいと思います。


11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。