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ロシアとウクライナの狭間で;ベトナムの微妙な立ち位置

ここ数日はやはり何といってもロシアのウクライナ侵攻に関する話題が、世界を、そしてベトナムを駆け巡っています。私自身コロナにかかり数日は高熱で朦朧としていて、でも目に入ってくるのはほとんどがこの話題と言って良いでしょう。

一言でいえば、この話題に関するベトナムの立場は極めて「微妙」です。もちろん、その微妙さが世界情勢を揺るがすということはないのですが、ベトナムを見るに渡って「旧共産圏」という文化圏がいまだに色濃く残すものがあるんだなあとも感じさせられます。今回はそんなベトナムとロシア、ウクライナを巡るニュースを俯瞰してみたいと思います。

ベトナムメディアの報じ方

今回ロシアがウクライナに攻め入った状況をベトナムメディアはどう報じているでしょうか?その報道トーンは、終始客観的というか、少なくとも「ロシア非難」という立場を取らない慎重なもの。言葉遣いとしても「xung đột(衝突)」といった言葉を多用し、侵攻のような言葉は巧みに避けている印象があります。

ここに関しては、現在VTVにて勤務という非常に特殊な経験をされていらっしゃる山本岳人さんのブログがとても興味深いです。「国営テレビ局としてうかつな発言はできない」中で働く人たちの苦悩が見て取れます。

戦闘含めた情勢は非常に詳しく追いつつも、どちらかの立場はとらない、外電引用中心に客観的な報道に徹する。こういった立場が求められる背景は、どこから来るのでしょうか?

ベトナムとロシア(ソ連)の特殊な関係

まずはベトナムとロシアの関係から始まります。当然ながら歴史は旧ソ連時代に遡り、ベトナムは社会主義ブロックの兄貴としてソ連とは特殊な関係を築いていました。ベトナム戦争中は最大の支援国であり、「アメリカに勝った!」とされるベトナム戦争はソ連(そして部分的には中国)の支援無くては無かったと言えるでしょう。

当時の多くの指導者層は旧ソ連に留学し、国民の多くがロシア語を学んだ(~1980年代)という時代がありました。今のベトナム政治指導者層でも旧ソ連留学組、或いは実はロシア語ができる人、というのは結構います。(もちろん、世代交代は進んでいますので、今の50代以下だとその傾向は大分少なく、欧米志向・留学経験の方も多いですが。)それはベトナム建国の祖、ホーチミンさんとソ連との深い関係にも言えます。

特殊な関係はソ連崩壊後のロシアとも続き、現在でもベトナムとロシアは友好国同士。ベトナムの軍事装備が多くロシアから購入されていることも知られています。そして、このウクライナ侵攻の最中である3月1日にも、経済協力に関しての会合がモスクワで開かれたとのニュースが。実施的な会談内容の有無はともかく、このニュースがこの時期にベトナムから発信されていることが、何よりも象徴的に感じます。

そして国連総会緊急会合でのロシア非難決議案に対しベトナムが棄権したことで、はっきりと「ロシア、ウクライナのいずれの立場もとりません」という立場を取ることを明確にします。

ベトナムとウクライナの特殊な関係

ではウクライナとの関係はどうかと言いますと、それも浅からぬ縁と言えるでしょう。その何より具体的な表れは在ウクライナのベトナム人コミュニティー規模。それは現地の中国人よりも多いようだという事実だけとってみても、どれだけのベトナム人同胞が同地で生活しているか、その縁が感じられます。その意味ではウクライナ紛争のベトナムの最も重要な対応は、地政学云々ではなく、まずは「自国民をどう守るか」という非常に具体的な外交課題でした。

その数のみならず、歴史的に見てもウクライナに縁を持つベトナム人は、ロシアと同様多くいます。中でも、現在のベトナム経済を牛耳る立場と言ってもいい、国産巨大コングロマリット・ビングループPhạm Nhật Vượng会長は、ウクライナでの起業から現在の成功を築いたそう。

同じくベトナムの富豪にのし上がったVietJet会長、Thao女史もロシア留学組。旧ソ連含めた東欧地域は、本来は旧共産圏での社会主義理論学習の意味合いがあったはずなのに、後のベトナム市場経済化の「予習」を行う場でもあったというのは面白いところです。こんな側面はベトナムVTVが製作したあるドラマでも描かれています。

ベトナムが大国間で見せる特殊な八方美人外交

本来なら、大国の蹂躙を受けて戦火を長くさまよったベトナムという国の歴史から、ウクライナに対してより同情的であってもいいはずなのに、ここでも「中立」を堅持するベトナム。ベトナム外交は常に「全方位外交」と言われますが、(自国が直に関連する事象はさておき)大国間を巡る問題では大きく立場を取らないという立場を強くとるベトナムは、ある意味究極の「八方美人」外交とも言えるでしょう。

今後のロシア・ウクライナ情勢がどうなっていくかに影響を及ぼすとは思えませんが、ロシアなどが自国に同情的なベトナムのような国をどう活用していくか、その中でベトナムがどこまで「全方位」を続けるのか、これもベトナムという国の一面であることは知っておいた方が良さそうです。


11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。