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『ベトナム戦争の記録』;多角的で濃厚な現代史ドキュメンタリー(1)

本日は「読んで」ではなく「観て」ですが、ケン・バーンズ&リン・ノービック監督「ベトナム戦争の記録」を観て考えたことを。2017年リリースなので最新というものではありませんが、気になりつつもまだ観たことがありませんでした。大変引き込まれるドキュメンタリー番組です。

まずはご推薦までに

最初に白状するのですが、実はまだ全エピソード10話の内の4話までしか観ていません。「じゃあなんで先走ってnoteにするんじゃい!?」と申しますと、実は比較的多くの人がアクセスしやすいであろう、Netflixでの同番組配信が6月19日までだからなのです。ですので、まずはその良さを紹介するためにも「パート1」としてnoteを書き、全て観終わったらまた落ち着いて全体を通じて考えたことを書こうかと思っています。

もしNetflixをご利用の方は、配信終了の6月19日までに是非ご覧ください!(Netflixの回し者ではありませんがw、ベトナムで観ても日本語字幕も選べました。)全10話と言っても一話が2時間近くにもなる濃さなので、自分も計画的、或いは一気に観ないと観終わりません、ご注意を。但し、映像はかなりリアルな戦場のものを利用しておりますので、観ていて辛くなる場面もしばしば、その点は覚悟の上でご鑑賞ください。

「第1次」ベトナム戦争から掘り起こす

エピソード1はフランス植民地時代のベトナムから語り始めます。ベトナム戦争ものというと、1965年あたりからのアメリカ軍本格参戦以降のものが多くなってしまい、その背景への理解が薄くなりがちです。このドキュメンタリーもアメリカとの関連性への描写は中心なのですが、フランス植民地時代から日本の進駐、ホーチミンによる独立宣言、そして「第1次ベトナム戦争」と言われるフランスとの戦いもしっかり描かれています。

とかく「ディエンビエンフーの戦いで勝ったやつね」とだけの記憶になってしまいがちな、独立当初のベトナムの様子を理解できる番組構成に、観始めた自分も「おぉっ、これはなかなか濃厚だなあ」と引き込まれ始めます。

多様な人物インタビューから見る重層性

どんな歴史事象、現代社会問題でも、それが語る人の立場や置かれている状況によって、同じものでも違って見えるもの。ましてやベトナム戦争のような多くの複雑な関係者の絡みあう事象になれば当然です。

「戦争の記録」はアメリカ側からの視点が豊富で、当時の政治家の音声・映像記録に加え、従軍した兵士、ジャーナリスト、彼らの家族(遺族)などへの多くのインタビューが惜しむことなく散らばっています。「過ちだった」という観点も当然多数紹介されているのですが、なかなか日本人の肌感覚ではわかりにくいアメリカでの時代背景なども見えてきます。

例えば、自らベトナム戦争に志願して赴いた若者たち。確かに黒人、非白人系、貧困世帯層が「止む無く」或いは「人生一発逆転」的な意味で従軍した人も多かったそう。ただ当時の若い兵士の中には、ベトナム戦争が、第2次世界大戦、朝鮮戦争の僅か10数年後に起きている、つまり当時の彼らの父親世代がついこの前の戦いでの「英雄」だったという時代背景がありました。それがゆえに、「祖国を共産勢力から守る英雄に自らもなりたい」と志願する若者が多くいたことが紹介され、その時代の空気が読み取れます。

そう言うと、ベトナム側からの視点や記録が薄くなりそうですが、当時を知るベトナム人将校、兵士、政治家、市民など、ベトナム人側へのインタビューも大変多く、番組全体をとてもバランスの良いものにしています。そして、そこでは「北」の声、「南」の声、更には「南の中の北」の声などがとてもバランス良く取られており、この戦争の複雑さをきちんと反映しているなあと感じます。

北の言い分、南の言い分

上記の通りアメリカからの視点は豊富と言っても、いやいやどうして、ベトナム国内の情勢もかなり時間を割いて描いています。その中には南北両ベトナムの国内事情を、それぞれの立場でこの戦争の歴史を生き抜いてきた人たちの証言から感じることができます。

最終的に勝利した北側ベトナムの声というのは、終戦後もその栄誉を称えるために多くが映像化され、多大なる苦労と犠牲についても記録が残されています。一方、表に出にくいのは南ベトナム側の人の声です。一般的には「南ベトナム政府は政治が汚職にまみれまくっていたので自滅」「北ベトナムは軍も人民も統一・解放のためにより本気であった」という描かれ方で、それは事実の大きな一面ではあります。この点についてはこの番組でも多くの証言と映像が示されています。

ただ、それでもなお南の人々が、そしてアメリカが、北ベトナム・ベトコンを恐れるだけの恐ろしい、時に容赦のないやり方を北側がしていたことについてもかなりの証言があります。戦時下だけでなく、北ベトナムの政治の中で多くの人の異論が排除されていった事実…。激しい戦火の中で、両者、そして外国勢力も含め、全てが極端に走ってしまう、時に狂気の沙汰に陥ってしまう点を、番組としては余すことなく映すことで、描写を非常に厚いものにしていると感じます。

そういう描写もあるところ、Netflix経由とは言え、よくこの番組がベトナムで普通に配信できているなあとも観ながら感じるところ。隣の大きな国でしたら、この手の番組は配信は即刻停止されてしまいそうですが、そこはベトナム政府の度量の広さなのか、緩さなのか…。

続きはパート2で・・・

とはいえまだ観終わったのはエピソード4、1967年くらいまでです。続きを楽しみながら、更にこのドキュメンタリーを楽しんでいきたいと思います♬全部観るのは多少時間がかかりますが、ベトナムの歴史に関心がある方には楽しめると思います。是非皆様も観てみてください。

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。