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落花生ちゅうちゅう

この歳になると何かを食べて驚くということが少なくなってくる。

自分の好みはよくわかっているし、作るにしても食べに出るにしても「外さない」術を身につけてしまったからだ。美味しくないものに当たる確率は減ったけれども、新しい発見も減ってしまった。

そう思っていたら、今秋ひどくビックリした食体験があった。
何か特別なものを食べたわけではない。珍味でも、下手物でもない。
きっかけはスーパーで生落花生の袋売りを見つけたことだった。

―――落花生

これまでの人生で数えきれないほど食べてきた。特に好きなわけでも嫌いなわけでもなく、どちらかというと印象の薄い食べ物だ。
なぜ目に留まったかはわからないけれど、殻付きのナマの落花生を見て、これどうやって食べるんだろう?とふと思ったのだ。

ちなみに柿の種に入っている「ピーナッツ」も落花生である。
生落花生の殻を外して炒ったものだが(薄皮も剥かれていることが多い)、なぜかこちらは洋風な趣きが漂う。落花生はマメ科なのでれっきとした「豆」のはずだが、ピーナッツになると「ナッツ」の仲間に見えるから不思議だ。

■(参考)豆とナッツの違い
「豆」とはマメ科植物の種子のこと
「ナッツ」とは食用になる木の実のこと
マメ科の植物なのか、木になるものなのかという点に違いがある

違い比較辞典から一部抜粋加工

ともあれ、ナマの落花生を入手したのでレシピサイトに従って茹でてみることにした。大量の水に3%の塩をいれ、40分間グツグツと茹でる。そしてアツアツのうちに殻を割り、中の豆を薄皮ごと頂く。よく知っている乾燥したピーナッツとは違い、見た目もしっとりしている。口に入れて歯で嚙んでまたびっくり。水分を含んだシャクッとした歯ごたえとともにほんのり塩味のある甘い汁が口内いっぱいに広がる。落花生ってこんなに美味しい食べ物だったっけ?

だが本当の驚きはここからだった。

落花生の新たな魅力を発見してびっくりしていると、知り合いから「採れたての」落花生を頂くという偶然が起きた。そもそも落花生がどうやってできるのか知らなかったのでネットで調べたところ、花が落ちた後、花の付け根から子房(しぼう)が伸び(子房柄(へい)というらしい)、それが地面に潜ってサヤ(殻)を付けるのだという。そんな落花生を茎ごとごそっと抜くと子房柄の先にぶらぶらと大小さまざまの落花生の殻が付いてくる。この大小入り混じった状態の新鮮な落花生を頂いたわけである。

茹で方は前回と一緒。熱湯ごとザルに空けると、今回は大きさが様々で中には長さ2cmほどの小さい殻も交じっている。捨ててしまおうかと思ったとき「小さいのはそのまま食べられますよ」と言われたことを思い出した。

そのままって殻ごとってこと?

半信半疑でそっと歯で噛んでみると、殻はほとんど抵抗なく噛み切れるほど柔らかい。(もちろん茹でる前にしっかり洗っておく必要がある。)
そのまま咀嚼を進めると、なんと大きい実よりも甘くてジューシーではないか。

3cmくらいの少し殻が固くなりかけたものは割って中身を食べる。実になりきっていない養分が殻の内側に白くゼリー状に貼り付いていてこれをちゅうちゅうと吸う感じで食べるのだが、これがまた得も言われぬ美味しさである。固形化していない分、甘みがダイレクトに来るようだ。うまい。本当にうまい。
スーパーでは選別された大きな殻が売られているけど、落花生の醍醐味はこのチビ殻なのではないかと思うくらいだ。

来年もまたこのチビ殻をちゅうちゅうしたい。運良く貰える確率は高くないから、手に入れるには自分で栽培するしかないかもしれない。美味しいものを食べるためのハードルは低くないということか。


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