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見えなかった色を見る

「テツコン復活!強いテツコンが帰ってきた!」

お正月のテレビから聞こえてきた聞き慣れない言葉に耳を奪われた。

画面に写っているのは若いランナー。タンクトップと短パンで箱根から東京につながる国道をひた走る若人の姿がそこにあった。
そう、舞台は箱根駅伝。新年の清らかな陽射しを浴び、前方をしかと見据え、鍛え抜かれた体を躍動させて若者が疾走する。アナウンサーが叫んでいる。

「テツコンの実力発揮だ!」

テツコン?テツコンって何?
聞き違いじゃないよね?

ハテナマークでいっぱいになりながら、よくよく耳を凝らしていると段々とそれが色の名前なのだということがわかってきた。
各校が大事につなぐタスキ。
走者の汗と涙が染み込み、全員が死に物狂いになって手渡していく一本の布。
そのタスキの色には各校ごとに独自の呼称がつけられている。

「テツコン=鉄紺」は東洋大学の色だった。

2023年11月の全日本大学駅伝で過去ワーストの14位に沈んだ東洋大だが、お正月の箱根駅伝では意地の4位に入り、19年連続でシード権を獲得した。その健闘をたたえるため「テツコン」が連呼されていたわけだ。

しかしなんという風流な呼び名なのだろう。
濃紺や藍色など、深い青色を表す色はたくさんある。その中でわざわざ「鉄」という無機質な金属を選んで形容させるとは。黒くて硬質な鋼のイメージが真っ先に浮かぶけれど、それだけではない。控えめながらも光沢のあるキラメキを感じさせる。

頭に浮かんだのは「天目(てんもく)」だ。陶芸の世界で天目茶碗といえば、天下人がこぞって手に入れたがった高貴な器である。鉄分を含む釉薬をかけることで黒味を帯びた重厚感のある器が、なんとも艶のある深い光沢を放つ。
芯に秘めた凛とした強さを表現するのにこれ以上の形容があるだろうか。

私は東洋大のOBOGでも応援団でもないけれど(失礼!)、きっとこれからもテツコンと聞くたびに、この色とこのチームを思い出すだろう、

箱根駅伝にはほかにも、
・まつばみどり(松葉緑) 東京農業大学
・えんじ(臙脂) 早稲田大学
・えどむらさき(江戸紫) 立教大学
など由来を確認したくなってしまうような色がたくさんあった。

何十年も見ていたのに、こんなことにも気づいていなかったなんて。

肩の力を抜いて
深い呼吸をして
自分の足で立って
ゆっくりゆっくり一歩ずつ歩く

生き方のペースを少し変えたからこそ気づけた変化なのかもしれない。

風邪を引いて寝こんでいたけれど、こんな年初めも悪くないな。
鉄というそこにはないもの、見えないものから想像する色はなんと美しく、心豊かなのだろう。
今年はのんびり徒歩で歩もう。そんなことを思わせてくれたお正月だった。

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