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競馬は人生に大切なことを教えてくれる「ビコーアルファー 1997年/スプリンターズステークス」~得意なことでなくてもやれることをやりきる~ 

「一門」の看板がビコーペガサスなら、
ビコーアルファーは太刀持ちといったイメージだった。
ふり返ってみると、重賞は24回挑んで未勝利。
でも獲得賞金「3億円超え」というのは立派。そうそういない。

黒い馬体にうっすらと汗が光るのがかっこ良い1頭だった。
雰囲気があった。引退後、騎馬隊に行けたのも納得。

最初に、強い印象を受けたのはフジキセキの弥生賞を見に行った時だ。
彼はまだ1500万下で走っていた。
95年の3月、行きの電車。競馬新聞でちょうど
10R「ファイナルC」のページを
見ていたら隣のシルクハットのおじさんに話しかけられた。
「ビコーアルファーはどう思う?」
気軽に話しかけられたのでこちらも気軽に
「人気だけど、そこまで強いと思えないんですよね~」みたいに答え、
意気揚々と浅いうんちくを並べた恥ずかしい記憶がある。

さんざんっぱら「若造」の披露する予想自慢を聞き倒してくれた男性は
別れ際、とんでもない一言を聞かせてくれた。
「実は私、この馬の馬主なんです。では」
その一言が本当だったか、
ただの普通のおじさんのいたずらドッキリだったか、は置いといて―。
瞬時として、自分なんかより確実に競馬に詳しいであろう方に講釈垂れた!と感じてしまい…口先から尻の出口まで変な汗が湧き出たのを覚えている。

―本題。

思えばビコーアルファの得意条件は「東京芝1400m」だった気がする。
生涯成績「7-2-5-39」 連対率は17%程度だが
これを1400mに限れば「3-4-0-6」と連対率は50%を超える。
さらに東京1400mだと「3-2-0-3」、連対率62.5%だ。

最も印象深いのは、
海外からの出走馬・17万人気ドゥマーニが「勝っちゃった」、
抜け出して「勝っちゃった」京王杯SC(東京芝1400m)。
ビコーアルファーは2着に来た。こちらも15番人気だ。
馬連8万円越えは、3連複も3連単もなかった時代、
競馬場を揺らすには十分すぎた。
ちなみに3着のホクトベガも11番人気だったから、あの時3連単が
あったらいくらついたか想像するだけで鼻毛までもげる。
あの時は、どさくさで2着に来たと思ってしまったがその次々走で
同じ東京芝1400mで堂々勝ったことを思えばあれはどさくさじゃなく、完全に彼の得意条件だ。

だが、ご存知の通り1400mのGⅠは、東京はもちろんどこにもない。
距離体型としてレース施行数も多くはない。
だからビコーアルファーは1ハロン長くて少し切れ味が鈍る1600mや、
逆に1ハロン短くて頭の追走で苦労する1200mに出ていた。
それでも大敗は少なかった。入着・入賞を重ねる「惜しい」競馬を
重ねていた。

「得意な条件でなくてもやれることをやりきる姿」には応援を続けるに
十分な魅力があった。

次の1着、まで実に2年以上を費やした。
97年の11月 富士ステークス(東京芝1400m)、
ロバーツ騎手が乗ってあっさり勝った時には、もう条件反射で
「ただ」勝っていたビコーアルファーの単勝100円までが当たって、
自分でもびっくりしたのを覚えている、

そして、その次走がビコーアルファーのラストランになった。
「GⅠスプリンターズステークス 中山競馬場 芝1200m」

ひとつも得意な条件じゃない。
ファンとしても勝つイメージは沸かなかった。14番人気は妥当。
でも鞍上に「ロバーツ」の名前があったことに、
「せめて生涯初のGⅠ掲示板!」を期待した。
ただ、相手はタイキシャトル、キョウエイマーチ、フラワーパーク、
ワシントンカラーと歴史に残る名馬達‥。
5枠9番から出た時から黒い馬体はするすると後ろ。
(ふり返れば半年以上ぶりの1200m戦、
そりゃ一回1置いて行かれるのも仕方ない)

直線、前はタイキシャトルが万全に前を全部交わして
ゴールへと涼しく駆け抜けていく。
ワシントンカラー、フラワーパーク、スギノハヤカゼらが
追走で2着・3着を熱く争う展開。

ビコーアルファーはその後ろ、
直線向くまで、ほぼ最後方。大外に回るしかなかった位置から
どこまで前に来れるか?ビコーアルファー自身の挑戦だ。

タイキシャトルの圧勝を伝えるレース映像。
1頭ずつ前を交わし、ひとつずつ前に来るビコーアルファーが
見切れているのが分かる。

(2) 「恐ろしい3歳馬タイキシャトル」【スプリンターズステークス1997】 - YouTube

結果は6着。
GⅠの掲示板はすぐそこだった。

最後まで、得意な条件でなくても走り切った。
圧勝タイキシャトルとは、また別の感動 感謝がある。

人生に得意な条件なんて早々ない。
どんな環境でも挑むしかない。

今年もまたスプリンターズステークスの日が来た。
中山芝1200m。

私の本命は5枠⑨番アグリ。(あの時のビコーアルファーと同じ枠だ!)
中山は初出走だ。急坂は得意か?そうじゃないか?さて!!

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