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立川吉笑「『言葉でしか表現できない』からこそ、落語はおもしろい」

(このインタビューは2015年1月21日に掲載したものです)

現在、最も注目を浴びる若手落語家の一人と評判の立川吉笑さん。30歳という若さながら、すでに二つ目の落語家として活動し、落語会への出演はもちろん、イベント開催やテレビやラジオへの出演、エッセイ連載など幅広いジャンルで活躍しています。落語界に新風を巻き起こしつつある立川吉笑さんに、お笑いの世界から落語家になったきっかけ、落語の大いなる可能性についてお話を伺いました。

立川吉笑がいま輝いている3つの理由!

前代未聞のスピード昇進!
落語家の下積み時代と呼ばれる「前座」から、噺家として人前にたてる「二つ目」への昇進は通常3~10年ほどかかるが、吉笑さんは入門からわずか1年半で二つ目に昇進。
各界の著名人たちからラブコールが!
浅草キッドの水道橋博士や放送作家の倉本美津留氏、ライターの九龍ジョー氏など、カルチャー界の著名人たちから「気鋭の若手落語家」と称され、注目されています!
落語家とは思えない多彩な活動!
「吉笑ゼミ。」という落語イベントを開催したり、「擬古典」という新ジャンルの落語を開拓したりと、従来の落語家のイメージを覆すような幅広い活動を展開中!

落語への入り口は1枚のCD

—— 吉笑さんは、30歳にして、「いま最注目の若手落語家」と言われることが多いと思います。なんだか落語家らしからぬいろんな活動やオリジナル落語を発表していますよね。

立川吉笑(以下、吉笑) あははは、なんやかんややってますね。

—— 26歳の時に立川談笑師匠に弟子入りなさっていますが、最初に落語を志したきっかけはなんだったんでしょうか?

吉笑 もともと落語家になる前から「笑い」を表現したくて、お笑い芸人をやったり、アニメを作ったりといろいろなことをしていたんです。

—— え、アニメも作ってたんですか!

吉笑 そうなんですよ。そんななかで以前から知人に「落語はおもしろいよ」とは言われていたので、興味はあったんです。ただ、CDのクラシック音楽の棚と同じで、わけがわからないのに種類がありすぎて最初の1本目になにを選んだらいいのかわからなかったので、ずっと放置してたんですよね。

—— たしかに、過去の名落語家たちのストックも考えると、膨大な量ですよね。

吉笑 でも、あるとき渋谷のHMVに行ったとき、「あ、落語のCDを聞いてみようかな」と思って1枚だけ買ってみたんですよね。そのときたまたま僕が選んだCDが立川志の輔師匠のものだったんです。

—— はじめてちゃんと聞いてみた落語はどうでしたか?

吉笑 これが、大正解でした。すごくおもしろかったんですよね。僕が好きだった三谷幸喜さんの作るウェルメイドのシチュエーションコメディを彷彿とするような内容で。

—— そのときピンときたのは、どんな内容の落語だったんですか?

吉笑 そうですね、なかでも特に気に入ったのが「だくだく」という噺でしたね。古典落語と呼ばれる昔からある演目のひとつなのですが、ある男が自分の家の家具を買うのがめんどうで、部屋に白い紙を貼って、絵師に家具の絵を描いてもらうんですけど、その家に泥棒が入るんです。でも、絵に描いた家具だから、盗むわけにはいきませんよね。でも、泥棒も「この男がモノがある体を装うなら、こちらも盗んだ体になって帰ろう」として、モノがないのに盗むフリをするんです。

—— おお、なんだかシュールですね(笑)。

吉笑 まぁ、実際にぜひ聞いてみてほしいんですが、かなり発想がトンガッている話なんです。「あぁ、落語にもこんなネタがあるんだな」と衝撃でしたね。

—— そこから、ハマっていったんですか?

吉笑 ハマりましたね……。僕は夢中になると、いろいろと分析したりリサーチするタイプなんですが、まず、志の輔師匠の落語の音源は全部聞きました。それでもっともっと聞いてみたいと思って、いろいろ調べてみると志の輔師匠は立川談志師匠のことを「神様みたいな存在だ」と書いていらしたので、「あの志の輔師匠がさらに尊敬している人はどんな人なんだろう」と思って、今度は談志師匠の音源を聞くようになりました。

落語でしか表現できない「笑い」がある

—— 落語にハマった一番の魅力はなんだったと思いますか?

吉笑 さっきも言ったように、コントや漫才ではできない「笑い」を再現している……というところでしょうか。

—— 「できない」ですか?

吉笑 「粗忽長屋」という落語をあげるとわかりやすいんです。「粗忽」はそそっかしいという意味です。これは、ある男が道を歩いていると、人だかりができている。「何かな?」と思って近づくとどうやら行き倒れの現場なんですね。その倒れている人の顔を見て驚いた。自分の友達だったんです。その場にいた人はようやく死体の身元が分かったことにホッとして、「あぁ、良かった、ご家族かだれか呼んで引き取ってください」と言うわけです。

—— ええ。

吉笑 でも、その死体の男は天涯孤独で家族はいないようで、関係者はいない。そこで通りがかりの男は「だったら本人を連れてきます!」と言うんです。

—— 目の前で死んでるのに(笑)。

吉笑 主人公は「大変だ!」と急いで本人の元へ行きます。でも本当は倒れていたのは全くの別人だったので友達が「どうした?」と普通に出てくるんです。でも主人公はそそっかしいから「お前、死んでるぞ。お前はそそっかしいから、自分が死んだことにも気づいていないんだ。ほら、自分の死体を見に行け」と伝えるんですよ。すると、友達もそそっかしいもんだから「そうか」と納得しちゃって現場に行き、その死体を見て「これは間違いなく自分の死体だ」と言うんです。

—— ……想像するとじわじわきます(笑)。

吉笑 不思議ですよね。要は、落語はほかの表現方法と違って言葉だけで表現できるから、こういうズレを違和感なく表現できるんですよ。

—— ああ、確かに映像やコントでは逆に難しいですね!

吉笑 そうなんです。死体が実際に映ってしまうとその時点で良くも悪くも話がズレちゃうんですよね。死体と友達が別の顔でも同じ顔でも、どちらにしても意味が変わってきてしまう。でも、落語だったら、具体的に「モノ」をみせずに状況説明をするだけでお客さんが信じてくれる。自由に想像してもらえるんですよね。

—— そうか、「モノ」を使わず言葉だけで勝負するから、人によって思い描く内容が違うんですね。

吉笑 そうです。たとえば「喉から手が出るほど欲しい」という言葉がありますよね。落語で僕がこの言葉を使ってネタを作ったとします。

 A「俺に譲れよ。喉から手が出るほど欲しいんだ」

 B「だめだよ、お前は喉から手が出るくらいだろ?俺は実際に喉から手が出てきているんだよ」

 A「……いや、俺だって、ほら、喉から手が出てきたよ」

 B「お前の喉から出ている手は左手だろう。俺のは右手だ。つまり、利き手が出てきているってことは、俺のほうがずっと欲しいってことなんだよ!」

—— おお。

吉笑 映像だと、この「喉から手が出てくるところ」を実際に表現するのは難しいですよね。でも、落語だと言葉だけで想像させればいいので、できるんですよね。言葉だけというシンプルな表現手法だからこそ、多様なシチュエーションを作り出せること。それが落語の持つすごさだと思います。

立川吉笑(たてかわ・きっしょう)
落語家。1984年生まれ。京都府出身。立川談笑門下一番弟子。高校卒業後、お笑い芸人を目指し、活動。その後、2010年11月立川談笑に入門。2012年4月に異例のスピードで二ツ目に昇進。現在、「吉笑ゼミ。」のイベント開催や、水道橋博士のメルマガ『メルマ旬報』で「立川吉笑の現在落語論」を執筆中。著書に『吉笑年鑑 2012』。「立川吉笑web」絶賛更新中。

構成:藤村はるな 撮影:yOU

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